ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違いすぎました。
◇ ◇ ◇

「ビールジョッキ大で!」

 すっかり日も落ちて、妖しげなネオンが煌めく世界へと変貌した街の居酒屋に、咲良の姿はあった。
 居酒屋のカウンター奥の席に座った咲良はビールをごくごくと飲み干しつつ、フライドポテトに焼きおにぎりやグラタンといった一品物の料理を遠慮なく叩き込んでいく。
 今日はやけ酒に暴食と決め込んだ咲良は、ひとり黙々と食事を進めていた所だった。

「あれ……中崎さん? 中崎さんだよね? 違ってたらごめんなさい」
「!」

 その声は咲良がずっと頭の中で繰り返してきた愛しい声。

「か、か、春日先輩!?」

 咲良の右隣にいるのは、モノトーンカラーなブランド物のトップスとボトムスを着こなしている色白の若い男性。茶色く染めた髪はセンター分けでさらさらとしている。体格は少し華奢で背は高く、学生時代から変わらぬアイドルのような端正な顔立ちは31歳と言う年齢を感じさせないし、もはや芸能人顔負けのレベルと言っていい。
 
 彼こそが春日秀介。咲良が中学生の時から好意を募らせ憧れ続け、同人誌にたびたび昇華されてきた男である。
 そんな相手が偶然にも咲良の隣に現れて、名前を呼ぶものだから咲良の動揺は留まる事を知らない。

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