激重シスコン皇帝は、勝ち気な姫に陥落する
この皇帝、
言いながら自分で混乱している。
「他の令嬢たちと話しても、お前の顔が浮かぶ。
 どれだけ取り繕っても、どれだけ完璧に見えても……違う。
 俺は“皇后としての理想像”なんかじゃなく――」

そこで言葉が止まる。
ビンセントは息を大きく吸い込んだ。

「俺は――“ルチア”が見たい。」

「…………え?」

「皇后としてとか、国益とか、そんなものは関係ない。
 お前が怒って、笑って、苛立って、毒舌を吐いて……
 そうやって俺と対等に話す姿が……俺は……」

眉間に皺を寄せながら、
苦しげに絞り出した。
「…………好きなんだと思う。」

沈黙が落ちた。

ルチアは目を見開いたまま動けず、
ビンセントは息を詰めて、
彼女の返事を待つ。

ほんの数秒——
だが二人には永遠にも感じられる時間。

ルチアは視線をそらし、
頬にうっすら赤みを差した。
「……そんな真顔で言われても。
 戸惑うに決まってるでしょ、バカ。」

その言葉にビンセントは固まり――
次の瞬間、息を吐いて微笑した。
「帰ると言うな。
 ……せめて、“次の審査までは”残れ。」

「“せめて”なのね。……分かったわ。」

本音は言わない。
けれど、帰らないと決めたのは事実。

ビンセントの瞳に、
露骨に安堵の色が浮かんだ。


< 30 / 111 >

この作品をシェア

pagetop