気まぐれヒーロー3
「っ、」
ハイジが放ったボールは、ほんの僅かに軌道を逸れ──
ゴールのリングの上を、その丸みに沿うように二周ほど転がり……ネットを揺らすことなく、外側へと落下していった。
ハイジの三投目は……失敗だった。
地面を転がっていくボールを拾い上げたのは、ケイジくん。
そして彼は、呆然と立ち尽くすハイジのもとへ歩み寄り、
「次、俺が決めたら──お前の負けや」
ハイジの耳元に、低い声を落とす。
紅い髪が一層、際立つ。
彼の瞳はハイジを捉えて離さない。
微かに上がった口角に胸がざわめくのは……彼の狙いが“私とのデート”じゃなく、もっと別の部分にあると確信したから。
最初から、そうだった?
彼は……ハイジを……。
「さっさとやれよ」
それでもハイジは冷静に一言残して、場を離れた。
表情も声色も変化はなく、息を潜め、この勝負の結末を見届けようとしている。
だけど、どこか影が差したように見えるのは、気のせいだろうか。
もしも……ケイジくんが入れたら?
ハイジが負けたら?
デートなんてどうでもいい。
ただ……その瞬間、“何か”が変わってしまいそうで。
二人が、私の知ってる二人じゃなくなってしまうんじゃないかって。
そんな不安に煽られる。
だからといって、どんな結末ならいいのかなんて私にはわからない。
ケイジくんはボールを一度コートに弾ませ、視線を上げてシュートの体勢に入った。
心臓の鼓動が、急かすように速くなる。
両手を握りしめ、数秒後に突きつけられる勝敗を、待つことしかできない。
そして──
ケイジくんの手から、ボールが放たれた。
何も、聞こえない。
まっさらな世界で、ただ一つ。
宙に弧を描くバスケットボールだけが──
今この瞬間の、すべて。