気まぐれヒーロー3


「っ、」


ハイジが放ったボールは、ほんの僅かに軌道を逸れ──

ゴールのリングの上を、その丸みに沿うように二周ほど転がり……ネットを揺らすことなく、外側へと落下していった。


ハイジの三投目は……失敗だった。


地面を転がっていくボールを拾い上げたのは、ケイジくん。


そして彼は、呆然と立ち尽くすハイジのもとへ歩み寄り、



「次、俺が決めたら──お前の負けや」



ハイジの耳元に、低い声を落とす。


紅い髪が一層、際立つ。
彼の瞳はハイジを捉えて離さない。

微かに上がった口角に胸がざわめくのは……彼の狙いが“私とのデート”じゃなく、もっと別の部分にあると確信したから。


最初から、そうだった?


彼は……ハイジを……。



「さっさとやれよ」



それでもハイジは冷静に一言残して、場を離れた。


表情も声色も変化はなく、息を潜め、この勝負の結末を見届けようとしている。

だけど、どこか影が差したように見えるのは、気のせいだろうか。


もしも……ケイジくんが入れたら?

ハイジが負けたら?


デートなんてどうでもいい。

ただ……その瞬間、“何か”が変わってしまいそうで。


二人が、私の知ってる二人じゃなくなってしまうんじゃないかって。

そんな不安に煽られる。


だからといって、どんな結末ならいいのかなんて私にはわからない。


ケイジくんはボールを一度コートに弾ませ、視線を上げてシュートの体勢に入った。

心臓の鼓動が、急かすように速くなる。


両手を握りしめ、数秒後に突きつけられる勝敗を、待つことしかできない。



そして──


ケイジくんの手から、ボールが放たれた。


何も、聞こえない。


まっさらな世界で、ただ一つ。


宙に弧を描くバスケットボールだけが──


今この瞬間の、すべて。



< 25 / 33 >

この作品をシェア

pagetop