総長は姫を一途に溺愛する。
翌朝。入学したばかりの私は、まだ新しい教室の雰囲気に慣れず、少し遅れて校門をくぐった。
「今日こそ、落ち着いて行動しなきゃ……」
そう自分に言い聞かせ、背筋を伸ばす。
しかし、廊下を歩き始めた瞬間、背後から低く響く声がした。
「姫――」
思わず足が止まる。――昨日の、あの声……!
振り返ると、黒髪の少年が立っていた。昨日の強面な表情のまま、鋭い瞳で私を捉えている。
「えっ……あ、あの……」
慌てて後ずさる。心臓がバクバクして、頭が真っ白になる。
「昨日言っただろ……俺の姫だって」
低く囁くその声に、背筋が凍るような感覚を覚える。
「ひ、ひ、姫……? い、いきなり何ですか……」
混乱して思わず口を押さえる。周りに誰もいないとはいえ、こんなことを言われるのは怖すぎる。
「だから――俺の姫になれ」
またしても真剣な瞳で見つめられる。
「や、やめて……!」
思わず声をあげ、教科書を抱えて走り出した。廊下の壁に手をつきながら息を切らす。
――私、どうしてこんなことになってるの……?
振り返ると、彼は追いかけては来ない。でも、低く笑う声が廊下に響いた。
「逃がさない……俺の姫だからな」
その言葉に、背中にぞくりとしたものが走る。怖い……でも、どこか心がざわつく。
――この人から、逃げられる気がしない……
足を止め、心を落ち着けようとしても、胸はまだドキドキしていた。