総長は姫を一途に溺愛する。
 放課後の公園。
 桜の花びらがゆっくり舞い落ちる中、蓮先輩が私の手を握り、静かに向き合ってくる。

「ひまり……今日は、ちゃんと覚えてほしい」

 低く落ち着いた声。
 その瞳はいつもより強く、真剣で、どこか切なさを帯びている。
 私の胸がぎゅっと熱くなる。

「蓮先輩……」

 思わず呼ぶと、蓮先輩は小さく笑い、私の頬に手を添える。

「ひまり……覚えていなくてもいい。でも、このキスで全部思い出してほしい」

 その言葉の重みと、真っ直ぐな視線に、体が震える。
 ゆっくり唇が重なる瞬間、心の奥で何かが弾けた。

 ――パチン、と光が走るように、記憶の断片が一気に蘇る。

 蓮先輩と初めて出会った日のこと、
 黒薔薇組に囲まれて緊張した日々、
 放課後に抱きしめられたこと、
 笑顔で手をつなぎ、デートを重ねた日々……

 全てが一気に胸に押し寄せ、涙が溢れる。
 私は蓮先輩の胸に顔を埋め、声を震わせる。

「……覚えた……蓮先輩……全部……思い出した……!」

 蓮先輩は優しく私を抱きしめ、耳元で低くささやく。

「そうだ……ひまり、俺の姫だ。ずっと、俺のそばにいてくれ」

 その言葉に、胸がいっぱいになり、体中が温かさで満たされる。
 涙と笑顔が混ざる中、再び唇を重ねられ、心も体も彼に預ける。

 ――思い出せなかった日々も、失った時間も、
 これからは二人で紡いでいける。
 私は、完全に蓮先輩の姫。

 手をつなぎ、抱きしめ合い、笑い合う二人。
 春の桜の下で、私たちは再び、かつてのように、そしてそれ以上に幸せな日常を取り戻したのだった。
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