この空の青を、君は知らない
第三章


七月に入って、病院にも少しずつ夏の気配が入り込んでいた。

僕は相変わらず変わり映えのない毎日を過ごしている。
ただ、四月までとは少しだけ変わったことがあった。

それは、夜になると、屋上に行くようになったこと。
そして、前よりもずっと、空を見上げるようになったこと。

描いた空の絵は、気づけばいつも天音に渡している。
前はただの趣味だったはずなのに、今は少しだけ意味が変わった気がする。

空を描いていると、いつも天音のことを思い出す。

天音は、絵を受け取ると嬉しそうに抱えて、それから夜空にかざして見比べる。
その様子を見ると、本当に空が好きなんだなと思う。

そしていつの間にか、その時間が、僕にとって大事なものになっていた。

とはいっても、それは夜の話だ。
天音と出会ってから三ヶ月。
ほとんど毎日会っているけれど、会うのはいつも夜の屋上だった。

だから昼間は、相変わらず暇だ。

学校からの課題をやって、窓の外をぼんやり眺めて、絵を描く。そんなふうにして、時間だけがゆっくりと過ぎていく。

夜明けの絵を描いたあの日から、僕はカーテンを開けるようになった。

あのとき見た空が、今もずっと頭の片隅に残っている。

夜空の静かな光とは違う、色鮮やかで、まばゆいほどに明るくて、綺麗だった。

いつか、天音にも見せてあげたい。
そんなことを、最近よく考える。

『昼の空を描いてよ』
『ちゃんと見てきてね』

天音の声がふと頭に浮かんだ。

昼の空は、直視できないほど眩しい。
その強い光にまだ慣れなくて、窓から少し離れたベッドの上で、ぼんやり眺めているだけだった。

もし見せたら、どんな顔をするんだろう。
きっと、また嬉しそうに笑うんだろうな。

そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなる。

その時、ノックの音が聞こえた。

「そろそろ行こうか」

顔を出した坂井さんがにこりと微笑む。
僕は頷いて病室を出た。

日中に外へ出るのは、週に一度のこの検査くらいだ。

検査を終えて、のんびりと病室に戻っている、そんな時だった。

いつもの廊下の掲示板を見て、足が止まる。
鮮やかな色が目に入って、思わず近づいた。

——花火大会

その文字の後ろには、大きな打ち上げ花火の写真があった。

胸の奥が、きゅっと掴まれた気がした。

このあたりでは有名な花火大会で、今年は久しぶりに開催されるらしい。

病院からも近いみたいだ。
だったら、屋上から見えるかもしれない。

そう思った瞬間、頭に浮かんだのは、

夜空に広がる光と、それを隣で見上げる天音だった。

きっと、真剣な顔で見て、それから嬉しそうに笑うんだろう。

その様子を想像しただけで、少し胸が高鳴る。

——一緒に、見られたらいいな。

心の中で、そう思って、少しだけ驚く。

天音と出会ってから、
僕は少し変わったのかもしれない。

楽しいことを考えると、
自然と天音のことが浮かぶようになっていた。

花火、楽しみだな。

そう思いながら、病室へ戻る。
一ヶ月後の夜空を想像して、思いを馳せる。
その足取りは、それまでよりもずっと軽くなっていた。


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