1ヶ月だけ、君の隣で。

第三話 隠しきれない秘密

 放課後、A組の教室は熱気でむんむんしていた。


「ねぇ! 文化祭の出し物、そろそろ決めよー!」

「パンケーキ屋とかどう?」

「映えるやつがいいって〜!」


 廊下まで響く声に、奏はそっと耳を塞ぎたくなる。
 こういう“意見を出し合う場”が、少し苦手だ。

 (また変なこと言って空気乱したら……)

 中学の記憶がうっすらよぎったとき——


「奏、こっち」


 当たり前みたいに蓮が袖を引く。
 教室の後ろ側に空いた席を指し、当然のように隣へ座る。


「ま、まず離れて!」

「なんで? 俺、奏の意見聞きたいんだけど」

「……べつに言うほどの意見なんて——」

「あるよ。絶対」


 蓮は断言するように言う。
 その声音に、奏は少しだけ胸が温かくなってしまう。
 話し合いは進んでいき、女子からこんな案が出た。


「ねえ、カップル喫茶ってどう?
 蓮くんなら絶対人気出るよ〜!」


 きゃー! と女子たちが盛り上がる。
 蓮は「まじ?」と笑っていたけれど——

「でも」

 次の瞬間、ひゅっと奏の腰を引き寄せた。


「俺、奏と同じ企画がいい」


 耳元で言われ、奏は真っ赤になる。


「な、なんで今それ言うの!?」

「え、普通のことじゃね?」


 普通じゃない。
 周りの視線が一気に刺さる。
 女子たちの何人かは、露骨に眉をひそめていた。

(……また。私のせいで、蓮が……)

 胸がぎゅっと縮む。
 そんな奏の変化に気づいたのか、蓮はふっと目を細めた。


「……奏、無理してない?」


 その声が優しすぎて、逆に苦しい。
 あんたのせいだよ、と叫びたくなる。


「無理してないよ。
 私なんて、クラスで役に立たないし」

「は?」


 蓮の声が低く落ちる。


「誰がそんなこと言ったの」

「昔の……話だから……」

「奏が自分を下げる言い方、俺ほんと嫌い」


 蓮は真っ直ぐ奏を見る。


「中学で何があったか、分かんないふりしてきたけどさ。
 ——俺には、全部話してよ。
 奏のことなら、全部知りたい」


 その言葉に、胸が痛いほど揺れた。
 昔みたいに“守られる”のが怖い。
 でも、蓮にだけは……少し頼りたくなる自分もいる。


「……文化祭の案、どうするのかなぁ!」


 先生の声が教室に響き、ふたりの空気は一旦中断された。


「よし、企画は——写真館(フォトブース)に決定!」


 ぱっと教室が湧く。


「装飾はチームに分かれてやるぞー!」


 そのとき、蓮が当然のように手を挙げた。


「奏と同じチームで」

「は!?」

「はぁぁ??」


 クラスの声が重なる。
 蓮はまったく気にしない。むしろ、薄く笑っている。

(……蓮、ぜったいわざとだ)

 奏が抗議しようとした瞬間、蓮が耳元で小さく言った。


「奏のこと、ひとりにしないから」


 その言葉に、胸がまた痛くなる。
 “守られるのが怖い”
 “でも、離れたくない”

 そんな矛盾だけが、今日も奏の心を締めつけていた。
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