1ヶ月だけ、君の隣で。
第七話 噂と距離
文化祭まで、あと五日。
放課後の教室は、いつもより空気が重かった。
「……ねえ、清水さんってさ」
「柏見くんと“契約”なんでしょ?」
ひそひそ声。
でも、今日はやけに近い。
奏の指先が、はさみを持つ手ごと止まった。
(……なんで、知ってるの)
蓮と“期限つきの恋人”だなんて、
誰にも言ってない。
言うはずがない。
「アハハッ、マジ?」
「マジ、マジ!どうせ一か月で終わるんでしょ?」
「じゃあ今だけじゃん。特別扱いされてるの」
「えー、かわいそー!」
「絶対清水さんから言ったよね!
柏見くん優しいからなー、断れなかったんでしょ!」
悪意が、言葉の隙間から染み出してくる。
胸の奥が、ひやりと冷えた。
(……あぁ、やだ、逃げたい)
中学のときと同じ。
直接責められるわけじゃない。
でも、気づいたら“居づらい空気”ができている。
奏は何も言えず、ただ俯いた。
——その瞬間。
「……誰が、そんな話した?」
低い声。
顔を上げると、蓮がそこに立っていた。
笑顔はない。
クラスのムードメーカーの顔じゃない。
「契約? 一か月?」
女子たちが、びくっと肩を揺らす。
「それ、どこ情報?」
「え……冗談、だよ……?」
「噂、っていうか……ね?」
「そう、聞いただけだし」
蓮は一歩前に出た。
「噂で人のこと言うの、楽しい?」
空気が、凍った。
奏の心臓が跳ねる。
「れ、蓮?」
思わず、蓮の袖を掴んだ。
——守られるのが、怖い。
庇われた結果、もっとひどくなった過去を、
奏は知っている。
「ちょっと…」
その声は震えていた。
蓮は奏を見て、はっとしたように表情を変えた。
「……ごめん」
そう言って、視線を逸らす。
教室の空気は、ぎこちなく元に戻ったけれど、
奏の胸はずっと苦しいままだった。
準備が終わり、人のいなくなった教室。
奏は、勇気を振り絞って口を開いた。
「……蓮。もう、あんまり一緒にいないほうがいい」
蓮が、ゆっくり振り向く。
「……理由は?」
「私のせいで、蓮まで嫌な目で見られるの、嫌だから」
「それが本音?」
「……半分」
嘘。それは、4分の1くらい。
残りは、言えない。
期限が、近いから。
もっと一緒にいたいって思っちゃうから。
そう言ったら、迷惑だから。
蓮は少し黙ってから、静かに言った。
「俺はさ、奏を守りたい」
その言葉に、胸がきゅっと縮む。
「でも、奏は守られるのが怖いんだよね」
図星だった。
「……中学のとき、俺がいなかったから」
その一言で、涙が出そうになった。
「だから、今回は離れない」
蓮は、はっきり言う。
「期限があっても。
噂されても。
俺は、奏の味方でいる」
優しすぎて、残酷だった。
(そんなふうにされたら……)
奏は、好きだと認めてしまいそうになる。
でも、それは——
一か月で終わる恋。
「……ありがとう」
それだけ言って、奏は視線を落とした。
文化祭まで、あと五日。
期限まで、あと五日。
この気持ちを、どうしたらいいのか。
まだ、答えは出なかった。
放課後の教室は、いつもより空気が重かった。
「……ねえ、清水さんってさ」
「柏見くんと“契約”なんでしょ?」
ひそひそ声。
でも、今日はやけに近い。
奏の指先が、はさみを持つ手ごと止まった。
(……なんで、知ってるの)
蓮と“期限つきの恋人”だなんて、
誰にも言ってない。
言うはずがない。
「アハハッ、マジ?」
「マジ、マジ!どうせ一か月で終わるんでしょ?」
「じゃあ今だけじゃん。特別扱いされてるの」
「えー、かわいそー!」
「絶対清水さんから言ったよね!
柏見くん優しいからなー、断れなかったんでしょ!」
悪意が、言葉の隙間から染み出してくる。
胸の奥が、ひやりと冷えた。
(……あぁ、やだ、逃げたい)
中学のときと同じ。
直接責められるわけじゃない。
でも、気づいたら“居づらい空気”ができている。
奏は何も言えず、ただ俯いた。
——その瞬間。
「……誰が、そんな話した?」
低い声。
顔を上げると、蓮がそこに立っていた。
笑顔はない。
クラスのムードメーカーの顔じゃない。
「契約? 一か月?」
女子たちが、びくっと肩を揺らす。
「それ、どこ情報?」
「え……冗談、だよ……?」
「噂、っていうか……ね?」
「そう、聞いただけだし」
蓮は一歩前に出た。
「噂で人のこと言うの、楽しい?」
空気が、凍った。
奏の心臓が跳ねる。
「れ、蓮?」
思わず、蓮の袖を掴んだ。
——守られるのが、怖い。
庇われた結果、もっとひどくなった過去を、
奏は知っている。
「ちょっと…」
その声は震えていた。
蓮は奏を見て、はっとしたように表情を変えた。
「……ごめん」
そう言って、視線を逸らす。
教室の空気は、ぎこちなく元に戻ったけれど、
奏の胸はずっと苦しいままだった。
準備が終わり、人のいなくなった教室。
奏は、勇気を振り絞って口を開いた。
「……蓮。もう、あんまり一緒にいないほうがいい」
蓮が、ゆっくり振り向く。
「……理由は?」
「私のせいで、蓮まで嫌な目で見られるの、嫌だから」
「それが本音?」
「……半分」
嘘。それは、4分の1くらい。
残りは、言えない。
期限が、近いから。
もっと一緒にいたいって思っちゃうから。
そう言ったら、迷惑だから。
蓮は少し黙ってから、静かに言った。
「俺はさ、奏を守りたい」
その言葉に、胸がきゅっと縮む。
「でも、奏は守られるのが怖いんだよね」
図星だった。
「……中学のとき、俺がいなかったから」
その一言で、涙が出そうになった。
「だから、今回は離れない」
蓮は、はっきり言う。
「期限があっても。
噂されても。
俺は、奏の味方でいる」
優しすぎて、残酷だった。
(そんなふうにされたら……)
奏は、好きだと認めてしまいそうになる。
でも、それは——
一か月で終わる恋。
「……ありがとう」
それだけ言って、奏は視線を落とした。
文化祭まで、あと五日。
期限まで、あと五日。
この気持ちを、どうしたらいいのか。
まだ、答えは出なかった。