マジックアワー
  瞬が沙耶の隣に座ると、沙耶が手を止めて、瞬を見る。
  「瞬くんは、将来お医者さんになるの?」
  「まあそうだろうね」
  「なんでそんな他人事なの?」
  「うーん、なんかなぁ」
  「お医者さんかあ。すごいねぇ」
  「別になにもすごくない」
  沙耶の方がよっぽど凄いよ、と瞬は思う。俺が全然真面目に大学に行ってないなんて沙耶が知ったら、さぞかし引かれるだろうな。俺なんて、たまたま医者の家に生まれて、だから医者を目指して勉強して、それでなんとなくここまで来ただけ。
  「沙耶は大学卒業したら何したい?」
  「私は、子供たちが不自由なく学べるような仕組みをつくりたい」
  沙耶が少し恥ずかしそうに言う。
  「すげえ」
  瞬は、素直にそう思った。
  「だから、文部科学省に行きたいの」
  「ほぉ〜!行けるよ」
  「行けるかな」
  「行ける。沙耶頭良いもん」
  瞬が言い切ると、沙耶がコロコロ笑った。
 
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