星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「今日、仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫です」
 もしかして金持ちの息子で音楽家を目指していていて、反対されて逃げて来たとか?

 曲が始まったので、詩季はその考えを追い出した。
 今は思い切り歌って、なにもかも忘れてしまおう。
 ドラムの音がリズムを刻む。ベースに支えられたメロディが心地いい。前向きな歌詞を曲に乗せて口にしていると、なんとなく自分も前向きになれる気がしてくる。
 歌い終わってふと見ると、絃斗は自分が歌う曲を入れていなかった。

「歌わないの?」
「詩季さんの歌を聞きたいです」
「そんなこと言われると緊張するよ」
「ご、ごめんなさい、聞きません」
 慌てて謝るので笑ってしまい、彼も笑った。

 次の曲も彼は手拍子をしてくれて、詩季は気分がよくなる一方だった。
 それでつい、エトワ・ド・シエルの『恋』を入れてしまった。
 イントロに絃斗が顔をしかめて、それで慌てて曲を消した。

「ごめん、つい。好きだから」
「いいですよ。好きだからって、告白されてるみたいです」
 えへへ、と彼が気弱に笑った。
 沈黙が降り、ほかの部屋の遠い歌声が響いた。声の主は音程がずれていても楽しそうに歌っている。

「それ、弾いてみたい」
 沈黙を埋めるために言ったものの、高そうな楽器だから断られるだろうと思っていた。
「いいですよ」
「いいの!?」
 彼はハープを取り出し、ストラップを彼女にくぐらせるようにしてかけた。彼女の膝に、体に対して垂直に乗せる。
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