星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「それ、三つ目の」
「グリッサンドですね」
 またハープを膝にのせてもらい、詩季は柱の方から胴へ向けて人差し指で弦を撫でるように動かした。低音から高音へ、音が駆けあがる。

「逆向きにやるときは親指でやるんですよ」
 弦の短い方から長い方へ親指を動かすと、音も一緒に流れて行った。
「なんか楽しい!」
 何度も何度もグリッサンドをする詩季に、絃斗はまぶしそうに目を細めた。

「どうしたの?」
 気付いた詩季は手を止めてきいた。
「楽しそうだな、って」
 声は沈み、顔には憂いが満ちていた。
 あのときの彼だ、と詩季は思い出す。
 噴水のふちに座り、置いてきぼりにされた星のような彼。

「ハープ、楽しくないの?」
 自分から言い出したのなら、吐き出したいのかもしれない。そう思って聞いてみる。
「評論家にぼろくそ言われてショックで。調子に乗ってる、うまいだけで感動がない。偽物の音楽、騒音と変わらない、迷惑だって」
「ひどい!」
 憤りとともに、だから迷惑という単語にあんなに反応したのか、と納得した。

「そんなときにグランドハープの弦が切れて、気持ちまでぷっつり切れました」
「切れちゃうことあるんだ!?」

「そうです。ハープは弦を張り替えても一週間ほどは音が安定しないから余計にいらいらして、過去に言われたことまで思い出して落ち込んでしまいました」
 ため息が深くて、彼の心境そのもののようだった。
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