星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 まるで本物だ、と思った。
 なにがどうなったら本物なのかはわからない。どうしてそういう印象になったのかもわからない。
 淀んだ夜の中で、彼だけが異質だった。

 彼こそが地上の星だ。

 直後に、自分の表現の陳腐さに笑いがこみあげる。
 だけど、とまた思う。

 彼もまたおいてけぼりだ。
 地上に降りてきて、天に帰れなくなった星。
 その証拠に彼は途方にくれたように天を見上げている。悲し気な横顔は外灯に作られた影でよりいっそうの憂いを帯びて見えた。

 彼は傍らの大きなケースからなにかを取り出した。
 竪琴——ハープだ。
 抱きかかえるように膝に乗せ、ぽろろろん、と指を走らせる。

 彼女は音に引き寄せられるように近付いた。
「あなたは星なの? 吟遊詩人なの?」
 たずねると、彼は顔を上げた。

「歌ってよ」
 彼女が言うと、青年は困ったように首をかしげた。
「酔ってらっしゃいますか?」
「それがどうしたの」
 横柄に答える彼女に、青年はおろおろと視線をさまよわせた。
 星のくせに人間みたいな反応をするな、とふやけた頭で思う。

「歌ってってば。元気になれるやつ」
 星が歌ってくれるなら、この気持ちだって少しは浮上するかもしれない。
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