星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
2 星が流れるグリッサンド
 気がつくと、男性の綺麗な歌声が聞こえた。
 テノールだとかバリトンだとか、そういうのはわからない。歌声に透明感があると思ったのは初めてで、ただただ美しい。最近現れた歌手のエトワ・ド・シエルの声に似ていて、だけどもっとのびやかだった。

 歌の精霊がいる。
 そう思ってベッドでまどろんでいると、コーヒーのいい匂いが漂ってきた。

「ごはんができましたよ」
 歌が途切れ、男性の声が聞こえた。
 枕もとのスマホを確認すると、朝の七時半だった。金曜日、今日のシフトは休みだ。
 せっかく気持ち良く聞いていたのに。
 不満に思って体を起こすと、知らない顔がそこにあった。

「誰!?」
 思わず身を引き、布団を抱き寄せる。

「けんとです」
 彼は空中に絃斗(けんと)、と書いて、眉を八の字に下げた。

「昨日のこと、覚えてないですか?」
「なんのこと」
 昨夜は仲のいい他店の同僚とお酒を飲んだ。それから……。

「お名前教えて頂いていいですか」
瑞垣詩季(みずがきしき)
「良いお名前ですね」
 にこっと笑った顔は朝日に照らされて妙にまぶしい。

「食べながら話しましょう。冷めちゃいます」
「うん」
 詩季はどきっとしたのを隠して返事をした。
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