星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
涙で腫れた目を化粧でごまかし、詩季は出勤した。
店はもうオープンしている。バックヤードから出た詩季は店を見てため息をついた。
土曜日だから人出は多いが立ち寄る女性は少なく、他の店ばかりを見て回っている。
マネキンには昨日のうちに後輩が流行の服をおしゃれに着せている。マネキンに目を止める人は何人もいたが、店に入らずに通り過ぎていく。
こんなにおしゃれにできてるのに。
詩季はマネキンをじっと見つめる。
自分なんて、不慣れな男性ものとはいえ、絃斗に無難な服を選ぶことしかできなかった。おしゃれって難しい。
ため息をついて、通路をまたぼんやりと眺める。
新しい服を着た絃斗のうれしそうな顔が思い出された。
ふと、行き交う人波を改めて見つめる。
若い女性より子供を連れて歩くお母さんのほうが多かった。近くのベッドタウンからなにかのついでに来ているのだろう。
そうだ。
詩季はその思い付きに、胸がどきどきした。
今、店員たちは暇そうに服を畳みなおしたり掃除をしたりしている。
どうせ売上は悪いんだし、異動なんだし。挑戦してみてからでも。
「ごめん、やってみたいことあるから。変えるね」
マネキンに服を着せた後輩に声をかけて、服を取り返る。