危険すぎる恋に、落ちてしまいました。番外編
8月1日。
カレンダーに描かれた、赤いハートの印。

美羽は朝から何度もそれを見返しては、鏡の前に立っていた。
髪を整えて、服を選んで、また鏡を覗いて。

「うーん、……変じゃないよね?」

独り言を呟きながら、くるりと一回転。

それをキッチンから眺めていた母が、くすっと笑った。

「ふふ、いいわねぇ。
美羽、楽しそうね~♪気をつけて行ってらっしゃい。」

「ありがとう、ママ! 行ってきまーす!」

美羽は鞄を抱えて、弾むように玄関を飛び出した。


*

駅で莉子と合流し、電車を乗り継いで向かった先。
そこには、まぶしいほどの青が広がっていた。

きらきらと光る海。
照りつける太陽。
白い砂浜。

「やっとついたー!!」

莉子が両手を上げてはしゃぐ。

「ほんとだね……!」

美羽は眩しさに目を細めながら、胸いっぱいに潮の匂いを吸い込んだ。

「椿くんたち、もう着いてるのかな?」

スマホを取り出した、その瞬間。

――着信。

画面に映る名前に、心臓が跳ねる。

「あっ、椿くん!」

電話に出た瞬間、声が少し上ずる。

『はよ。もう着いたのか?』

少し眠たそうな声。

『俺たちももうすぐだ。近くにカフェあるだろ。そこで集合な。』

「え、あ、うん……!」

そう言う前に、通話は切れた。

「……切れちゃった。」

美羽はしょんぼり。

「暑いから日陰で休めってことじゃない?」

莉子がニヤニヤしながら言う。

「さすがクールイケメン彼氏~!!」

「ち、違うし!
声が寝起きだったから早く切りたかっただけだよきっと!」

「はいはい~」

二人は水着に着替え、ロングパーカーを羽織ってカフェへ入った。

冷たいメロンソーダを一口。

「はぁ……夏だねぇ~♪」

美羽がうっとりすると、莉子も頷く。

「ね! 私も美羽と来れて嬉しい~!」

その時だった。

「ねぇ、君たち可愛いねー?」

知らない他高の男たちが、ぞろりと現れる。

「あれぇ、ふたりだけ~?」

美羽は無言でスマホと睨めっこ。

莉子が愛想笑いで答える。

「彼氏待ってるんで~、ごめんなさい!」

だが、男子の一人が莉子の腕を掴んだ。

「えー!?こんな可愛い君達待たすとか何様??
そんな彼氏、最低じゃーん!
そんな奴ほっといてさぁ、俺たちと行こうよ~!」

「ちょ、ちょっと……!」

その瞬間。

「……うるさいんだけど。」

美羽の声が低く響いた。

「離してくれない?」

睨みつけると、男たちは逆に笑った。

「何々~、怒ってんの?
てか、君もかなり可愛いじゃん!!
ツンデレ? 最高じゃん!」

美羽の腕を掴んだ瞬間――

「は?」

美羽は一瞬で腕を捻り上げた。

「いででで!!」

「聞こえなかった?離してって言ってるじゃん。」

それを見た他の逆上した男が美羽を突き飛ばす。


「おいっ!調子乗んなよ!!」

ドカッ!!

「きゃっ!」
(しまった…!)

バランスを崩し、美羽の体が傾く――

その瞬間、温かい腕に抱きとめられた。

「待たせてるのは、俺様だけど?」

聞き慣れた声。

見上げると、太陽を背に立つ椿だった。

鋭い眼差し。
黒薔薇の王の威圧感。

「……椿、くん……?」

続いて悠真が肩をすくめる。

「ちょっと~?今時、女の子に暴力はダサいよ?」

碧がにこにこ笑う。

「勝負なら、受けて立ちますが?」

遼が手を振る。

「莉子ちゃーん? 無事?」

玲央が眼鏡を光らせる。

「録画は完了している。拡散されたくなければ退け。」

男たちは青ざめて逃げていった。

「もう、椿くん! 遅い!!」

美羽は涙目。

「悪ぃ。遼の方向音痴で遅れた。」

「え? 俺のせい~?ごめんねぇ~?」

「もう!!」

夏の太陽の下、
甘くて騒がしい一日が、ここから始まった。
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