月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
まだ夜の名残が残る王都の空に、鐘の音が低く響く。エミリアは静まり返った王宮の回廊をゆっくりと歩いていた。
両脇に飾られた燭台の火が揺れ、その光が床に長い影を落とす。その影はまるでエミリアの過去を映すように、足元で揺らめいた。
(これで、本当に終わるのね……)
前夜、王太子――いや、今は新たな国王となった夫から、離縁状を渡された。
厚い羊皮紙に書かれた、淡々とした数行の文字を思い返す。
【お前は今日をもって王妃の身分を解かれる。王命により、第二王子レオナール・アルタミラのもとへ嫁げ】
それが、すべてだった。
控えの間に差し込む朝の光が、冷たく床を照らす。
荷をまとめた木箱の横で、侍女のリリィが深く頭を下げた。
「本当によろしいのですか、王妃殿下……」
「ええ、いいの。それと私はもう王妃ではないのだから、名前で呼んで」
「ですが、こんな形で追放するなんて……」
震える彼女の声に、小さく微笑む。怒りも悲しみも、もう遠く霞んでいた。残るのは諦めだけだった。
「陛下のお気持ちは、もう決まっているわ。抗っても意味はないの」
「でも、妃殿下を差し置いて、側近だったバネッサ様を王妃にするなんて、そんなこと――!」