月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その扉の向こうは空気が淀み、壁には黒ずんだ魔法陣の痕が残っている。封じたはずの瘴気はなお、かすかに王宮の石を腐らせるように漂っていた。
 バネッサは優雅に立ち上がり、彼の肩に手を置く。

 「そんな怖い顔をして、なにをご覧になっているの?」
 「……いや、なにも」

 首を横に振って誤魔化す。
 あの場所は誰にも知られてはならない。

 「あなたが望む結末になるといいわね、陛下」

 その言葉には、皮肉とも忠告ともつかない響きがあった。
 遠くで鐘が鳴り、夕刻の鐘の音が広間に沈む。
 ルーベンはゆっくりと立ち上がり、窓辺から王都の街を見下ろした。
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