月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「馬鹿なことを言うな。あんなものに、なにができる」

 だがその反応が、彼の胸の奥に小さな棘を残す。
 弟レオナール。かつて幼くして誰よりも敬われ、民から慕われた男。自らの手で遠ざけたはずの影が、再び王都の白壁に戻ってきた。

 「まあ、せいぜい惨めに輝いてもらいましょう。王の慈悲にすがる老いた亡霊として」

 バネッサが艶やかに笑い、扇で唇を隠す。その笑みには、エミリアへの刺々しい嫉妬が混じっていた。

 「……だけど、エミリアも少しも衰えていなかったわね。北の果てに追放すれば、あの瞳も曇ると思っていたのに」
 「ふん。どんなに取り繕っても、今夜にはすべて暴かれるさ」

 ルーベンの口元に歪んだ笑みが浮かぶ。

 (あいつが異形に変わった姿を見れば……)

 それを想像するだけで体の底から喜びが沸いてくる。醜い姿を晒し、みなから憐みでも蔑みでも受けるがいい。

 (モルテン王国の王は、この私ただひとりなのだ。誰にもその座は渡さぬ)

 ルーベンは立ち上がって窓辺へ向かい、庭のある場所に目をやる。そこには誰にも知られていない地下への隠し扉がある。重い金の錠が嵌められ、古い符がいくつも貼られている。
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