月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 オセアンヌは慌てて娘の肩に手を置いた。

 「いいのよ。私たちのほうこそ、あのときなにもできなかったの。ごめんね、エミリア」

 母の手は昔と変わらず温かかった。しかしその温もりの奥に、この数カ月の重みがある。
 家族と言えど、エミリアの追放が王命である以上、下手に手を出せないのはわかっている。新国王となったルーベンに逆らうような真似をすれば、トレンテス家は没落の一途を辿るだろう。親類縁者まで巻き込むわけにはいかない。
 エリクは黙っていた。その沈黙は言葉よりも痛い。
 彼の眉間に深く刻まれた皺が、どれほどの苦悩と後悔を語っているのか、想像するだけで胸が軋む。

 「お父様」

 ようやく絞り出した声に、エリクはわずかに顔を上げた。

 「……あのとき、私にはお前を守る力がなかったのだ。すまぬ」

 懺悔の言葉が口をつく。おそらく今日までずっと後悔に苛まれるばかりの毎日だったのだろう。
 エミリアは首を振り、溢れた涙をぬぐった。

 「いいえ、私は大丈夫です。北の地で多くの人に助けられました」

 セルジュにカーリン、そして街の人々。雪深く閉ざされた土地とは思えないほどあたたかく、優しい空気に自然と癒された。王都では味わえなかった温もりは、今のエミリアにとってかけがえのないものである。
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