月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 ルーベンは信じられないといった様子で自らの足を見下ろす。そこにはもう、傷ひとつ残っていなかった。
 エミリアは静かに立ち上がり、裾を整える。その横顔に怒りはない。

 「あとは静かにお休みくださいませ」

 礼を尽くして頭を下げ、踵を返す。
 その背に、バネッサの掠れた声が追いかけた。

 「待って……あなた、今のは……」

 エミリアは振り返らなかった。
 光の残滓がまだ漂う広間をシルバが先に歩み出す。レオナールが続き、カーリンがそのあとに控える。
 扉がゆっくりと閉じる。外の空気は澄んでいた。
 夜の終わりを告げる風が吹き抜け、宮殿の塔の上に白い月が浮かんでいる。
 レオナールはそっと息を吐き、エミリアとうなずき合った。
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