月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その光の中で、ルーベンの呻き声が響いた。

 「……あ、足が……っ」

 彼の声は震えていた。血が床を汚し、赤い線が絨毯を染めていく。
 バネッサが駆け寄り、震える手でルーベンを抱き起こす。

 「陛下! どうか、しっかりなさって……!」

 彼女の声は悲鳴にも似ていたが、その瞳には涙よりも恐怖と動揺が浮かんでいる。
 血の匂いと焦げた煙が満ちるなか、エミリアは静かに一歩を踏み出した。血に濡れた絨毯の上に膝をつく。

 「足をお貸しくださいませ、陛下」

 ルーベンは痛みに顔を歪めながらも、怯えたように彼女を見つめた。

 「お前……なにを――」

 その言葉が終わるより早く、エミリアの手のひらからやわらかな光が溢れた。
 花弁が散るように光が舞い、血で染まった足を包み込む。裂けた肉が再び繋がっていく。
 バネッサが息を呑む。
 ルーベンもまた、驚愕に目を見開いた。

 「ば、馬鹿な……こんな、力を……」

 その光はやがて淡く消え、床に落ちた血までもが跡形なく消えていた。
< 127 / 224 >

この作品をシェア

pagetop