月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「兄上!!」

 その声はかすれていた。怒りも憎しみも、もはやどこにもない。ただ、悲しみだけが残っているように聞こえた。

 (このままでは終わらせられないわ……! 陛下を助けなければ、レオナール様は救われない)

 エミリアはふらつきながら彼のそばに駆け寄る。膝をつき、ルーベンの胸元に手をあてた。
 血に濡れた衣があたたかい。かすかに呼吸はあるが、このままでは命の火がすぐにも消えてしまう。

 「どうか……どうかお救いください……!」

 震える声で祈りながら、エミリアは両手を組み合わせる。その掌の間から、淡い光が滲み出た。
 祈りが言葉ではなく、心の底から零れ落ちていく。

 (陛下もまた、呪いに囚われていた人……ならば、赦しを)

 光が大きく脈打った。ルーベンの胸を覆う血がすっと吸い込まれるように消え、裂けた傷口が閉じていく。その光はやがて大きな波となり、倒れた周囲の瓦礫をも包みこんだ。
 ひび割れた石壁が静かに光を反射し、崩れた祭壇の上に残っていた封印の紋が音もなく消えていく。
 エミリアは止めなかった。祈り続けるうちに視界の端が白く滲み、意識が薄れていく。
 それでもなお、声を途切れさせるわけにはいかなかった。

 「どうか……この人を……この国を……」
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