月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その瞬間、礼拝堂の空気が変わった。
 どこからともなく風が吹き抜け、光が弾ける。ルーベンの体を包んでいた白光が、やがて枝分かれするように広がり、レオナールのほうへと流れた。

 「――こ、これは……!?」

 レオナールの体が光り輝き、朝の露に洗われるように澄んでいく。
 その光は髪を撫で、頬を照らし、まるで彼の中に流れていた古い闇を一つひとつ洗い流すかのよう。
 彼はその場で膝をつき、息を吐いた。
 長く閉ざされていた夜が、静かに終わりを告げるように。
 光がゆっくりと収束していく。ルーベンの胸の傷は完全に閉じていた。
 沈黙が訪れた。
 瓦礫の隙間から、東の空がかすかに明るみはじめる。長い夜が、ようやく終わろうとしていた。
 崩れた天井の裂け目から淡い光が流れ込む。
 冷たく沈んでいた空気が少しずつ動きはじめ、礼拝堂の奥に積もっていた灰が光を受けて、金の粉のように舞った。
 エミリアはぼんやりとその光景を見つめていた。胸の奥にまだ残る恐怖と痛みが、少しずつ溶けていくよう。
 瘴気は、もうどこにもない。
 風の音と静かな息づかいだけが聞こえる。ふと隣を見ると、レオナールを照らす光が彼自身の中から放たれているように見えた。
 レオナールは自分の手をまじまじと見下ろしていた。
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