月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 エミリアはしばらく言葉を探していたが、やがて意を決して口を開く。

 「殿下、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

 レオナールが視線を戻す。穏やかな目の奥に、一瞬だけ警戒の色が宿った。

 「毎夜、どちらへお出かけなのですか」

 静寂が流れた。
 暖炉のない温室には、風の音とフェンリルが尻尾を払う音だけが響く。
 やがて、レオナールはゆっくりと口を開いた。

 「この谷の外れには、魔獣の群れが棲みついている。彼らは夜の帳に隠れて森を彷徨い、人の領域を侵すこともある。ミカエル領には谷の下に人々が暮らす小さな街があり、そこに足を踏み入れぬように退けているだけだ」
 「魔獣を……殿下が?」
 「ああ。この谷はモルテン王国の北端に位置し、魔獣の侵攻を防ぐための最前線でもある。王都が平穏でいられるのは、この地の静寂が保たれているからだ」

 以前、転んだと言っていた傷を癒したときに感じた気配は、魔獣のものだったのかもしれない。

 「ですが、結界が張られているはずでは……?」

 モルテン王国には結界が点在している。

 「昔から稀にそれを超えて現れる魔獣はいたが、ここ最近はそれが増えている」
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