月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 レオナールの声には、疲労とも哀しみともつかぬ響きがあった。

 (もしかしたら、陛下が神殿をはねつけるような真似をしたから……?)

 結界の力が弱まっているのではないか。
 おそらくレオナールが語るのは事実だろう。だが、この老いた身体で、夜ごと魔獣を退けることなどできるはずがない。

 (やはり……夜になると、異形の姿に変わるのね)

 しかし、その疑念を口にはできなかった。
 レオナールの瞳の奥にあるものが恐ろしい魔の気配ではなく、むしろ人が人であることを守ろうとする静かな覚悟だったからだ。
 今の老いたレオナールにも、異形に変わるという夜の彼にも、不思議と恐れも嫌悪もない。それどころか、呪われてもなお国を守ろうとする姿に今の国王にはない王族としての誇りが見えた。

 (あの国王陛下と兄弟だなんて、信じられないわ……)

 慣例を無視し、暴走しはじめたルーベンを思い浮かべ、エミリアは首を横に振った。

 「どうか、無理はなさらないでください」

 エミリアがそう言うと、レオナールがわずかに微笑む。
 その笑みはどこか哀しくも温かく、炎の残り火のように優しい。
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