月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「この子は神の力を持っている」

 そう言ったのは、神殿から派遣された神官長だった。
 それを機に、エミリアは十歳の年に王都の神殿へ預けられることになった。
 家族と離れた最初の夜、涙を堪えながら祈りの言葉を口にしたことを、エミリアは今でも覚えている。
 石造りの寝室は冷たく、窓の外には王宮の塔が見えていた。いつか、あそこに住む王子のそばで祈りを捧げる日が来るのだと、幼いながらに夢を見た。
 しかしそんな夢とは裏腹に、神殿での生活は厳しく、孤独だった。
 朝は夜明け前の祈祷、昼は教義と古語の朗読、夜は魔力の制御訓練。食事は質素で、外界との接触はほとんど許されない。それでもエミリアは持ち前の穏やかさと勤勉さで、周囲の信頼を得ていった。
 淡い金色をしたエミリアの髪は陽光の下では銀色にも見え、それが祈りのたびに肩からこぼれ落ちると神殿の光そのものが形をとったかのように見えた。
 瞳は透きとおるほどの青。しかしただの青ではなく、深く覗き込めば底に静かな炎が宿っている。
 幼い頃から聖女として育てられたため、その所作や姿勢には無駄がなく、どんな瞬間も凛としていた。だが微笑むと途端に気高さはやわらぎ、花が太陽に向かって開くような温かさがあった。
 肌は雪解けのように白く、薄い唇は紅をささなくてもかすかに色づいている。その美しさは人の目を奪う類のものではなく、静かに、じわりと胸の奥に残る。
 〝誰かを救いたい〟と祈り続けた年月そのものが、彼女という人間の輪郭を形づくっているようだった。
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