月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「殿下」
 「うん?」
 「……この街の人たちは、とても穏やかですね」
 「そうだな。だがらこそ、その穏やかさを守らなければならない」

 レオナールの声は静かだが、その奥には並々ならぬ決意があるのを感じる。
 彼がどれほどの代償を払ってこの地を守っているのか。エミリアは胸の奥でそっとその思いを受け止めた。
 やがて、ふたりは街の外れの小さな茶店で休むことにした。
 窓の外には雪をかぶった屋根、テーブルの上には香り高い林檎茶。レオナールは手袋を外し、手を温めながらぽつりと呟いた。

 「今日という日を……思い出に残しておこう」

 その言葉に、エミリアは小さくうなずいた。彼の指先がほんの一瞬、彼女の手に触れる。
 その温もりは冬の終わりを告げる陽光のように、静かに心へ染みこんでいった。
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