月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 陽光に照らされた横顔は美しく整っているのに、微笑みは表情の表層だけに留まり、心の奥には届かない。

 「聖女とは、王家に仕えるために生まれるものだと聞いている」

 淡々とした声には、感情の起伏がほとんどない。義務を確認するかのように、彼はエミリアを見下ろした。
 その瞳は澄んだ青でありながら、氷のように冷たい。人を惹きつける輝きではなく、むしろ近づく者を拒む光を宿していた。
 彼の周囲には見えない壁が張り巡らされているようで、胸に小さな痛みを覚えた。

 (……でもきっと何度かお会いするうちに、その壁はなくなるわ。会ったばかりだからなのよ)

 そう自分に言い聞かせた。
 王太子妃として正式に王宮に迎えられるまで四年。その間、神殿と王家は形式的な儀式を重ね、十七歳になったエミリアはいよいよ〝神と国に選ばれた花嫁〟として民から祝福を受けた。
 しかし初めて対面したときに感じたように、その瞳の奥に温もりが宿ることはなかった。微笑みは儀礼の仮面であり、言葉は義務の響きにすぎない。
 王太子と聖女の婚姻が慣例であるのと同じように、その愛までもが形式にすぎないことをすぐに知ることになる。
 盛大な婚礼の儀のさなか、王子から指に指輪をはめられるときに気づいたのだ。

 (――やっぱり彼は、私を見ていない)
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