月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
彩りに満ちた世界
雪解けの季節が終わり、ようやく北の地にも春が訪れた。
砦を覆っていた氷はなくなり、風の匂いに花の香りが混じる。
エミリアがこの城に来てから、三カ月が経った。
彼女が歩くたび、城内の空気がやわらいでいくのを感じる。祈りの光が石壁を包み、かすかに甘い香りを残した。
レオナールは、この辺境に〝春〟など二度と訪れぬと思っていたが、彼女はそれを連れてきた。これまで無色だった世界が、彩に満ちている。
しかしその光のそばにいると、痛みも蘇る。
王都での記憶だ。
呪いを受け、異形の老いた姿に変わり、兄に見捨てられた夜。
あのとき、死ねていれば楽だった。そう思ったはずなのに、今は違う。
彼女の祈りを見つめていると、胸に微かな炎が灯る。それは希望などというものではなく、もっと静かな願い。彼女のそばで笑っていたいという願いだった。