月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その言葉には、看病を拒む以上の冷たさがあった。まるで父親の最期を急かすかのように、死を望んでいるように感じた。
 それから一カ月と経たないうちにアルフォンスは崩御。国王の葬儀の日、王都は黒い旗で覆われた。
 そしてその二週間後の夜、新王即位の儀式の前に、エミリアは王の間に呼び出された。
 王座には王太子――いや、すでに新たな王となる男、ルーベンがゆったりと腰を下ろして待っていた。
 その傍らには、ひとりの女性が立っている。燃えるような赤髪、妖艶な笑み。エミリアより三つ年上の彼女は貴族院の有力侯爵家の娘であり、かねてよりルーベンの側近として仕えていたバネッサ・セラディスだった。
 親密そうなふたりの様子を見て、男女の関係にあることを察知する。事実、侍従や侍女たちがコソコソと噂しているのを何度か耳にしていた。
 初夜はもちろん、結婚してから一度もエミリアの寝所を訪ねたことのないルーベンは、毎夜のごとくバネッサの元に通っていると。

 「エミリア」

 新国王ルーベンが冷ややかに口を開く。

 「お前との婚姻は、国と神殿の間の契約に基づくものだった。しかし、その契約はもはや無効だ」
 「……無効、とは?」

 意味がわからず聞き返す。

 「父王の崩御により、神殿との加護契約も終わった。これより王権は神聖よりも実力に帰す。神殿の権威は、もはや必要ない」
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