月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 手のひらにかすかな光が灯る。エミリアはそれを見つめながら、無理に微笑みを浮かべた。
 べつの女性の名を呼ぶ声に打ち砕かれながらも、彼の心がそれで安らぐなら……と願ってやまない。〝愛されること〟ではなく〝支えること〟が、妻として与えられた唯一の役目だと信じていたからだ。
 しかし、その選択がどれほど孤独を伴うものかを少しずつ知り、やがて自分の存在が王宮の中で装飾のように扱われていることにも気づいていった。
 そんな中、彼の父親である国王アルフォンスは、エミリアに優しく声をかけてくれていた。

 「お前の祈りは、いつも心を温めるな」

 アルフォンスは目を細め、まるで孫娘を見るような眼差しで笑う。その言葉はエミリアにとってたったひとつの救いだった。

 「お前を妃にすれば、ルーベンも少しは謙虚になるのではないかと思ったが……。私の教育が至らぬばかりにすまぬ」

 エミリアは首を横に振って応えることしかできない。国王のその言葉さえあれば、聖女として祈りを捧げ続けられる。そう思っていた。
 ところが、唯一の幸福の灯は長く続かない。アルフォンスが病に倒れたのは、婚姻からわずか一年後のことだった。
 王妃はすでにこの世にいないため、王太子妃として看病の許可を願い出たが、ルーベンは静かに首を振った。

 「余計なことはするな。父上はもう静かに休ませてほしいのだ」
< 8 / 224 >

この作品をシェア

pagetop