あなたとは合わないと思っていたけれど
 武琉は彼らしい、寛容さが滲み出る柔らかな表情で答える。しかし香澄との距離がいつもより近い気がした。

 香澄の立ち位置が邪魔になっているのかもしれない。そう考え少し下がろうとしたとき、足がひっかかってよろけそうになってしまった。

 武琉がすぐに気づいて香澄の腰を支える。

「……ありがとう」

 御礼の言葉に、武琉は笑みで答えた。そこまではよかったが、武琉が手が香澄の腰から離れない。この体勢はまるで本当の夫婦のようだ。

「あの……」

 普段ではあり得ない武琉の行動に香澄は戸惑い彼を見つめる。けれど武琉の目は英二に向いていた。

「妻とは高校の頃の同級生なんですか?」

 武琉は相変わらず柔らかな声音だ。

「はい。隣の席で親しくしてもらっていました」

 英二の言葉に武琉は鷹揚に頷く。依然として腰の手はそのままだ。

(武琉さん、手を回したままって気付いてないのかな?)

 気になったが会話の邪魔をしては悪いので、香澄はそのままの体勢で大人しくしていることにした。

「失礼ですが天谷さんは、天谷社長のご子息ですか?」

 英二が確認するように言った。

「はい。今日は父の誕生日祝いに駆けつけていただき、ありがとうございます」
「とんでもない。社長にはいつもお世話になっていますから当然です」
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