あなたとは合わないと思っていたけれど
 扉を開けて外に出て少し進む。そのとき植栽の隙間に見知った女性の姿を見つけて、香澄は硬直したようにその場で立ち止まった。

(蛯名さん? 彼女も来ていたなんて)

 動揺したが、彼女は天谷家と家族ぐるみの付き合いだから来ていて当然だ。

 早織は彼女と同じくらいの年齢の女性数人と、おしゃべりに興じていた。

 彼女とはなるべく関わりたくない。香澄は素早く建物の中に引き返そうとした。ところがそのとき、自分の名前が聞こえてきた。

「あの香澄って人が本当に武琉さんの奥さんなの?」

 発言したのは早織の友人のようだった。

 香澄は早織たちから死角になる樹々の影に隠れて、彼女たちの会話に耳をそばだてた。

 盗み聞きはよくないが、自分の話題となると素通りできない。

「そう。本当に結婚したみたい。会社でも話題になってたし、おばさまも認めていたから間違いないわ」

 早織が不機嫌そうな声音で答えた。結婚の事実を認めながらも彼女が納得していないのが窺えた。

「なんか信じられないよね。あれだけ独身主義だって宣言していた武琉さんが結婚するなんて。しかも相手は今まで見たこともない人でしょ? あの人ってどういう関係なの?」

 早織の友人はこのコミュニティの一員のようで、武琉のこともよく知っているようだ。

「ASJの社員よ。一応同僚の関係」
「へえ、エリートなんだ」

 友人が意外そうな声を出す。
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