あなたとは合わないと思っていたけれど
 そのとき武琉はどちらの味方をするのか……香澄は彼の妻だ。それでも彼が自分の味方をしてくれるとは思えない。

 契約で結ばれた妻では、長年の絆がある幼馴染にかなう訳がないのだから。

 しかも武琉は、家庭の面倒事を避けて仕事に集中するために、契約結婚をした。そんな彼に厄介事を負わせるのは契約違反にならないだろうか。

 武琉が面倒だと不満に感じたら、早織が何かする前に離婚になるかもしれない。

(それは嫌……やっぱり武琉さんには話せない。自分でなんとかしないと)

 今のところ早織がどういう行動に出てくるのか分からない以上、とりあえず様子を見るしかないだろうか。

 もっと詳しく話を聞いて情報を集めたいと思ったそのとき、低く響く声が割り込んできた。

「早織?」

 馴染みがある声だから、すぐに分かった。

(武琉さん?)

 香澄は反射的に身を固めて息をひそめ更に気配を消そうとした。

 こんなふうに盗み聞きをしていたなんて、彼には絶対に知られたくない。

「武琉君!」

 早織は打って変わって可愛らしい声を上げる。

「こんなところで何してるんだ? おばさんが探してたぞ」
「友達と少し休憩してたの。武琉君は私を捜しに来てくれたの?」

 早織のうれしそうな声が辺りに響いた。しかし武流の返事は淡々としたものだ。

「いや、香澄を探していて。見かけなかったか?」
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