あなたとは合わないと思っていたけれど
「……知らないよ。みんなも見てないよね」

 早織は明らかにテンションが下がっている。彼女の友人たちも「見てない」と気のない返事をした。

「分かった」
「あ、武琉君待ってよ!」

 武琉は踵を返したのを見て、早織が慌てて後を追おうとする。

(よかった、みつからなかった)

 ほっとしたそのとき、後方で食器を何枚も割ったような大きな音がした。

 香澄がびくりと身を縮こませたのと同時に、顔をしかめた武琉が振り返る。

「なんだ?」

 おそらく彼は音の正体を確認しようとしたのだろう。しかしそれより先に香澄に気づき、はっとした表情になった。

「香澄?」

 武琉が足早にこちらに近づいてくる。

「武琉君、今の音って……」

 早織も武琉について来ようとしたが、途中で香澄に気づき顔色を変えた。

「あっ、あなたいつからそこに……まさか私たちの話を盗み聞きしていたの?」

 早織が厳しい声で追及する。

 実際その通りなので、香澄は気まずさから目を逸らしてしまった。

 その態度は肯定しているも同然に映ったのだろう。早織の目が吊り上がる。

「やっぱり聞いてたんだ。なんて卑怯なの!」

 早織の友人たちも便乗して香澄を責め始める。

「あなた武琉君の奥さんなんですよね? それなのに盗み聞きなんて下品過ぎませんか?」
「こんなところま、わざわざ早織を探しに来たんですか? ちょっと怖いです」
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