あなたとは合わないと思っていたけれど
「でも、一緒に暮らしてたら情が湧いて好きになるかもよ?」

「そんなの想像できない。殆ど会う機会もないだろうし。万が一私がいいなと思うようになっても、相手にされないよ」

 いつか武琉が本当の結婚を考えるようになったとしても、その相手は香澄じゃない。外交的で気持ちが外に向いている彼には、同じようにコミュニケーション能力が高い女性が似合うだろう。

 それこそ価値観の一致というやつだ。

「香澄ならチャンスがあると思うけどな。現場に居た頃は人気でよく飲みに誘われてたじゃない。香澄の好みの人がいないのと、面倒がって誘いに応じないから仲良くなれなかっただけで、実はこの前も、香澄のことをいいなって言ってる人が……」

 そのとき玄関の向こうの共有廊下が、急に騒がしくなった。数人の大きな声が香澄の部屋にまで届き菜恵の声を掻き消してしまうほどだ。

 隣の部屋のドアが乱暴に開け閉めされてすぐに、派手な音楽が流れはじめる。

 菜恵は隣室の方に目を向けて顔をしかめた。

「ちょっと非常識じゃない? いつもこうなの?」
「うん。引っ越してきてからずっとこんな感じ。管理会社に連絡して注意をして貰ったけど、改善されないんだよね」

「ご近所トラブルか~。もしかして、結婚を決めたのはこれも影響してる? 自宅ライフを楽しむ香澄には、このうるささは耐えられないでしょ」

 香澄は深く頷いた。
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