あなたとは合わないと思っていたけれど
「駄目だ。俺は結婚したって言ったろ。少しは遠慮を覚えろ」

 武琉は素っ気なく言って、別の陳列棚に向かった。

「待ってよ。武琉君食事まだでしょ? 買い物終わったら一緒に行こう」

 早織が武琉の腕にしがみついてきた。

 突き放されることを警戒しているのか、かなりの力だ。

「お願い武琉君、私、ひとりで食事するなんて嫌だよ」

 早織が悲しそうな目で武琉を見上げる。頼りなく庇護欲をそそるその姿に、武琉は小さなため息を吐いた。

(仕方ない、食事くらい付き合うか)

 しかし早織の誘いに応じようとしたそのとき、ふと先日の香澄との会話を思い出した。早織が突然香澄の仕事場に押しかけ件だ。
 彼女は遠慮がちに武琉に報告した。

『彼女は武琉さんと結婚の話もあったと言ってましたけど』

 香澄が武琉と早織の関係を疑っている様子はなかったが、浮かない表情ではあった。きっと早織の行動を迷惑だと感じていたのだろう。

『早織が迷惑かけて悪かった。彼女にちゃんと注意しておくよ』

 武琉は申し訳ない気持になって、香澄にそう約束したのだ。しかしその後、早織と話しをするタイミングがなく、注意ができないままでいた。

(甘い対応をしている場合じゃない)

 食事の誘いは拒否だ。武琉は早織の腕をするりと外した。

「武琉君?」
「ベタベタくっつくな。もう大人なんだから弁えろ」
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