欠けていく世界で、きみの光を見つけた
「……着いた」
雨降りの日の朝。
昇降口についた私は、端に寄って傘を折り畳んだ。
次々と入ってくる同じ制服を着た生徒たちの流れをぼんやりと見つめながら、丁寧に雫を払って傘を巻きつける。
いつもより長い梅雨は、七月になったというのにどんよりとした曇り空を作り上げていた。
雨が続くこの季節は、好きじゃない。
濡れるし、空が暗いと登校に時間がかかるし。
人の波が止まったタイミングで、私は玄関に入った。
傘立てをじっと見つめて、周りの傘に当たらないように自分のものを慎重に差し込む。
——よし。
私は、一仕事終えた気分で、胸まである茶色の髪を耳にかけた。
「菜由〜。またぼーっとしてる」
後ろから聞き慣れた声がして振り返る。
視線の先には、あくびを噛み殺した後のようで、目を潤ませたひまりが立っていた。
高梨ひまりは、同じ小学校出身で中学二年生になった今まで、ずっと仲の良いお友達。
まだ早いような気がするけれど、まくった袖から覗く細い腕は、健康的な小麦色に日焼けしている。
「ひまり。おはよう」
隣に並んだひまりは勢いよく傘立てへと傘を突き刺し、自分の靴箱へと進んだ。
私も彼女を追いかけるように後に続く。
「ひまり、おはよー!これ、今日も筋トレ?」
そこへ賑やかな男子たちの声が聞こえ、背中合わせの靴箱が途端に騒がしくなった。
「雨だし、そうだと思うけど」
「えーーまじかよーー」
「きっちーー」
入ってきたのはサッカー部の団体で、五人の男子がわちゃわちゃと会話を繰り広げる。
慣れない騒がしさに、私は自分の靴をもったまま固まってしまった。
けれど、サッカー部のマネージャーをしているひまりは、慣れたようにその賑やかさを切り捨てる。
「筋トレくらい黙ってしなさいよ、情けない!」
「うるせえ鬼!」
「はあ?今日のドリンクになんか混ぜてやろうかな!」
わははと豪快な笑い声が響き渡り、私もようやく靴を履き替えた。
トントンと足を鳴らして顔を上げると、自然と、最後尾でおかしそうに笑っていた男の子に目がいく。
隣に並ばないうちにすごく背がのびたと思う。
見上げるようにして、そこに立つ彼に視線を向けた。
日に焼けて茶色く光る髪が、一番最初に目に入る。
目元にかかる前髪の隙間から、くっきりした二重の瞳がこちらに向いた。
目が合うと、それまでの楽しそうな口角が、何かを迷うように小さく揺れる。
「あっ、おはよう……泰史くん」
「……おはよ」
すぐに泰史くんの目が、すっと逸らされた。
私も、ぎゅっとリュックの紐を握って、つま先に視線を落とす。
「泰史、置いてくぞ〜!」
「菜由も早く!」
顔をあげると、いつの間にか上靴に履き替えた男子たちとひまりがこちらを見て笑っていた。
「ああ」
みんなの方へ視線を向けた泰史くんは、一度こちらを見てから、私の目の前でしゃがみ込む。
「え……」
突然の行動に目を瞬かせているうちに、泰史くんは何かを拾って、そのまま男子たちの元へ駆けていった。
「おい誰だよこれ!」
足元に落ちていたらしいパックジュースを掲げる姿に、私はハッとする。
「知らねーよ、俺らじゃねーし!」
「捨ててやれよ〜〜」
「嫌だよめんどくせえ」
あっという間に離れていった彼は、先にいた男子たちと、ゴミを押し付け合って笑っている。
賑やかな背中の中で、一番最初に目がいくのは、やっぱり泰史くんだった。
雨降りの日の朝。
昇降口についた私は、端に寄って傘を折り畳んだ。
次々と入ってくる同じ制服を着た生徒たちの流れをぼんやりと見つめながら、丁寧に雫を払って傘を巻きつける。
いつもより長い梅雨は、七月になったというのにどんよりとした曇り空を作り上げていた。
雨が続くこの季節は、好きじゃない。
濡れるし、空が暗いと登校に時間がかかるし。
人の波が止まったタイミングで、私は玄関に入った。
傘立てをじっと見つめて、周りの傘に当たらないように自分のものを慎重に差し込む。
——よし。
私は、一仕事終えた気分で、胸まである茶色の髪を耳にかけた。
「菜由〜。またぼーっとしてる」
後ろから聞き慣れた声がして振り返る。
視線の先には、あくびを噛み殺した後のようで、目を潤ませたひまりが立っていた。
高梨ひまりは、同じ小学校出身で中学二年生になった今まで、ずっと仲の良いお友達。
まだ早いような気がするけれど、まくった袖から覗く細い腕は、健康的な小麦色に日焼けしている。
「ひまり。おはよう」
隣に並んだひまりは勢いよく傘立てへと傘を突き刺し、自分の靴箱へと進んだ。
私も彼女を追いかけるように後に続く。
「ひまり、おはよー!これ、今日も筋トレ?」
そこへ賑やかな男子たちの声が聞こえ、背中合わせの靴箱が途端に騒がしくなった。
「雨だし、そうだと思うけど」
「えーーまじかよーー」
「きっちーー」
入ってきたのはサッカー部の団体で、五人の男子がわちゃわちゃと会話を繰り広げる。
慣れない騒がしさに、私は自分の靴をもったまま固まってしまった。
けれど、サッカー部のマネージャーをしているひまりは、慣れたようにその賑やかさを切り捨てる。
「筋トレくらい黙ってしなさいよ、情けない!」
「うるせえ鬼!」
「はあ?今日のドリンクになんか混ぜてやろうかな!」
わははと豪快な笑い声が響き渡り、私もようやく靴を履き替えた。
トントンと足を鳴らして顔を上げると、自然と、最後尾でおかしそうに笑っていた男の子に目がいく。
隣に並ばないうちにすごく背がのびたと思う。
見上げるようにして、そこに立つ彼に視線を向けた。
日に焼けて茶色く光る髪が、一番最初に目に入る。
目元にかかる前髪の隙間から、くっきりした二重の瞳がこちらに向いた。
目が合うと、それまでの楽しそうな口角が、何かを迷うように小さく揺れる。
「あっ、おはよう……泰史くん」
「……おはよ」
すぐに泰史くんの目が、すっと逸らされた。
私も、ぎゅっとリュックの紐を握って、つま先に視線を落とす。
「泰史、置いてくぞ〜!」
「菜由も早く!」
顔をあげると、いつの間にか上靴に履き替えた男子たちとひまりがこちらを見て笑っていた。
「ああ」
みんなの方へ視線を向けた泰史くんは、一度こちらを見てから、私の目の前でしゃがみ込む。
「え……」
突然の行動に目を瞬かせているうちに、泰史くんは何かを拾って、そのまま男子たちの元へ駆けていった。
「おい誰だよこれ!」
足元に落ちていたらしいパックジュースを掲げる姿に、私はハッとする。
「知らねーよ、俺らじゃねーし!」
「捨ててやれよ〜〜」
「嫌だよめんどくせえ」
あっという間に離れていった彼は、先にいた男子たちと、ゴミを押し付け合って笑っている。
賑やかな背中の中で、一番最初に目がいくのは、やっぱり泰史くんだった。