欠けていく世界で、きみの光を見つけた
家に戻ると、リビングからはテレビの音が漏れていた。
お父さんとお母さんがいるのが分かり、私は小さく扉を開ける。
「ただいま」
真正面に見える時計を確認すると、長い針は「11」の数字を指していた。
二人はすぐに振り返って「おかえり」と笑ってくれる。
「わがまま聞いてくれて、ありがとう。お風呂、入るね」
それだけ言って、私はリビングの扉を閉めた。
特に何も聞かれなかったことに、少しだけ胸がどきどきする。
そして私は、お風呂ではなく右側にあるドアに視線を向けた。
「……陸、入るよ」
軽くノックをしてドアを開けると、布団がもぞっと動く。
怒られたまま、潜り込んでいるらしい。
寝られないよね。
考えすぎた時、悲しいことがあった時。
私も寝てしまおうとベッドに潜り込むけれど、なかなか寝られないタイプだから。
変なところが似ているんだなと苦笑いをして、私はそっとベッドの横に腰を下ろした。
「……ね、陸。私、陸の気持ちちょっとだけわかったかもしれない」
きっと起きている陸に届くように、言葉を選びながら声をかける。
「実はさ、今ね泰ちゃんと、星を見に行ったの」
布団の中がもう一度動き、陸がちゃんと聞いていることが分かって私は微笑んだ。
「ちょっとだけ、お父さんとお母さんとの約束も破っちゃって」
静かな部屋に、私の声だけが落ちる。
「すぐそこの公園まで行っただけなの。でも、それだけのことなのに、ちょっとドキドキしちゃった」
何も返事がない布団に少し不安になりながら、私はもう少し続けた。
「その時にね、思ったの」
自分の手元を見つめながら、ゆっくり言葉を探す。
「陸は、こういう友達との時間を、たくさん過ごしてるんだなって。怒られるかもしれなくても、それでももっと遊んでいたいって思うような、楽しい時間をさ」
膨らんでいる布団が小さく揺れるのを感じて、私はそっとその上に手を添えた。
「私は、すぐに諦めるところがあるから、今日がね初めてで。そう思ったら、陸があんなふうに怒られるのも、ちょっと羨ましいって思ったし……」
本当は、みんなの目に映るはずの綺麗な星を、カメラ越しに見て、ほんの少し悲しくなった。
それでもやっぱり私は幸せだって思えるのは、紛れもなく、隣にいてくれた泰ちゃんのおかげなんだ。
「私は確かにあんまり怒られないし、陸はそれを羨ましいって思うかもしれないけどね……」
ぐすっと鼻を啜る音が聞こえて、私は少し目を細める。
「怒られるのも心配されるのも、違って見えるけど、陸のことだって同じように大切に思ってるから」
声をやわらげて優しく布団を撫でると、その体が小刻みに震えているのが分かった。
「もうみんな怒ってないから。明日は普通に起きてきてね」
立ちあがろうとした瞬間、布団が大きく動いて、布団の隙間から少しだけ顔が見える。
その目は、赤く充血していた。
たくさん泣いたんだと思うと、こちらも胸が苦しくなって、そっとその頭を撫でる。
「……お姉ちゃん……ごめんね」
ぽろぽろと横向きに涙がこぼれ出し、私は眉を下げた。
「見えないのだって辛いのに、酷いこと言ってごめん」
しゃくり上げるようにして泣く陸を前に、私は慌てて首を振る。
「もういいよ。私もごめんね」
ベッドの端に手を置くと、陸は鼻をすすりながら、小さく頷いた。
「……仲直りできそう?」
「うん」
陸の目元から涙を拭うと、少しだけその声に笑いが混ざって、私は目尻を下げた。
陸が眠ってから、自室に戻ってスマホを手にする。
怖かったはずの真っ暗な空が、美しいものに思えたこと。
素直に羨ましいと思う気持ちを自覚して、陸と向き合えたこと。
全部、泰ちゃんとの時間が大きいことを自覚する。
〈泰ちゃん、今日は本当にありがとう〉
メッセージを送ると、胸の奥がじんわりと温かくなって、じっとしていられないような感覚に襲われた。
数秒で返ってきた震えにすぐに目を向けて、その内容にまた感情を押さえ込むように枕に顔を埋める。
〈また行こう。いつでも連れて行くから〉
苦しい。
苦しいくらいに、泰ちゃんの隣にいたい。
わかり始めていたそんな気持ちが、静まった夜の暗闇に静かに積もっていった。
お父さんとお母さんがいるのが分かり、私は小さく扉を開ける。
「ただいま」
真正面に見える時計を確認すると、長い針は「11」の数字を指していた。
二人はすぐに振り返って「おかえり」と笑ってくれる。
「わがまま聞いてくれて、ありがとう。お風呂、入るね」
それだけ言って、私はリビングの扉を閉めた。
特に何も聞かれなかったことに、少しだけ胸がどきどきする。
そして私は、お風呂ではなく右側にあるドアに視線を向けた。
「……陸、入るよ」
軽くノックをしてドアを開けると、布団がもぞっと動く。
怒られたまま、潜り込んでいるらしい。
寝られないよね。
考えすぎた時、悲しいことがあった時。
私も寝てしまおうとベッドに潜り込むけれど、なかなか寝られないタイプだから。
変なところが似ているんだなと苦笑いをして、私はそっとベッドの横に腰を下ろした。
「……ね、陸。私、陸の気持ちちょっとだけわかったかもしれない」
きっと起きている陸に届くように、言葉を選びながら声をかける。
「実はさ、今ね泰ちゃんと、星を見に行ったの」
布団の中がもう一度動き、陸がちゃんと聞いていることが分かって私は微笑んだ。
「ちょっとだけ、お父さんとお母さんとの約束も破っちゃって」
静かな部屋に、私の声だけが落ちる。
「すぐそこの公園まで行っただけなの。でも、それだけのことなのに、ちょっとドキドキしちゃった」
何も返事がない布団に少し不安になりながら、私はもう少し続けた。
「その時にね、思ったの」
自分の手元を見つめながら、ゆっくり言葉を探す。
「陸は、こういう友達との時間を、たくさん過ごしてるんだなって。怒られるかもしれなくても、それでももっと遊んでいたいって思うような、楽しい時間をさ」
膨らんでいる布団が小さく揺れるのを感じて、私はそっとその上に手を添えた。
「私は、すぐに諦めるところがあるから、今日がね初めてで。そう思ったら、陸があんなふうに怒られるのも、ちょっと羨ましいって思ったし……」
本当は、みんなの目に映るはずの綺麗な星を、カメラ越しに見て、ほんの少し悲しくなった。
それでもやっぱり私は幸せだって思えるのは、紛れもなく、隣にいてくれた泰ちゃんのおかげなんだ。
「私は確かにあんまり怒られないし、陸はそれを羨ましいって思うかもしれないけどね……」
ぐすっと鼻を啜る音が聞こえて、私は少し目を細める。
「怒られるのも心配されるのも、違って見えるけど、陸のことだって同じように大切に思ってるから」
声をやわらげて優しく布団を撫でると、その体が小刻みに震えているのが分かった。
「もうみんな怒ってないから。明日は普通に起きてきてね」
立ちあがろうとした瞬間、布団が大きく動いて、布団の隙間から少しだけ顔が見える。
その目は、赤く充血していた。
たくさん泣いたんだと思うと、こちらも胸が苦しくなって、そっとその頭を撫でる。
「……お姉ちゃん……ごめんね」
ぽろぽろと横向きに涙がこぼれ出し、私は眉を下げた。
「見えないのだって辛いのに、酷いこと言ってごめん」
しゃくり上げるようにして泣く陸を前に、私は慌てて首を振る。
「もういいよ。私もごめんね」
ベッドの端に手を置くと、陸は鼻をすすりながら、小さく頷いた。
「……仲直りできそう?」
「うん」
陸の目元から涙を拭うと、少しだけその声に笑いが混ざって、私は目尻を下げた。
陸が眠ってから、自室に戻ってスマホを手にする。
怖かったはずの真っ暗な空が、美しいものに思えたこと。
素直に羨ましいと思う気持ちを自覚して、陸と向き合えたこと。
全部、泰ちゃんとの時間が大きいことを自覚する。
〈泰ちゃん、今日は本当にありがとう〉
メッセージを送ると、胸の奥がじんわりと温かくなって、じっとしていられないような感覚に襲われた。
数秒で返ってきた震えにすぐに目を向けて、その内容にまた感情を押さえ込むように枕に顔を埋める。
〈また行こう。いつでも連れて行くから〉
苦しい。
苦しいくらいに、泰ちゃんの隣にいたい。
わかり始めていたそんな気持ちが、静まった夜の暗闇に静かに積もっていった。