欠けていく世界で、きみの光を見つけた
スマホが小さく震えて、私はクラリネットを吹くのをやめた。

譜面台の横に置いていたスマホを手に取る。

画面に表示されていたのは、泰ちゃんからの短いメッセージだった。

〈あと三十分くらい〉

当然のように交わされる帰り道の約束に、思わず口元がゆるむ。

私はクラリネットを膝に置いたまま、窓の外へ視線を向けた。

パート練習に使っている空き教室の窓からは、グラウンドがよく見える。

九月の日差しはまだまだ強く、グラウンドの土を白く眩しく照らしていた。

その熱の中、校舎近くのベンチに腰掛けていた人影が、スマホを片手に顔を上げる。

目が合った瞬間、胸がどきりと跳ねた。

白いユニフォーム姿の泰ちゃんは、汗を拭うように前髪をかき上げながら、小さく目を細める。

〈教室で待ってて〉

何かを打ち込む姿を見ていると、またスマホが震えて、短い文章が付け加えられた。

思わず口角が上がるのを誤魔化すように、私はスマホを胸元に押し当てる。

もう一度窓の外へ視線を向けると、晴斗くんに肩を叩かれた泰ちゃんが、くしゃっと目を細めてグラウンドへ戻っていくのが見えた。

その横顔を見た瞬間、今度は苦しいくらいの懐かしさが胸に広がって、胸の奥がきゅっと痛む。

泰ちゃんは、私の前で、もうずいぶんあんなふうに笑っていない。

歩く速さを合わせてくれて、周りを気にしていてくれて。
ずっと気を張っているみたいに優しくて、かっこよくて。

だけどわたしといる時のその姿は、どこか無理をして大人になろうとしているように見えていた。

それが優しさだってことくらい、私だって分かってる。

だけど、その優しさに触れるたびに。
彼の本来の笑顔を目にするたびに。

私は、このまま隣にいてはいけない気がしてしまうのだ。

……だって私は、普通じゃない。

ふと、あの日の白い診察室が脳裏に浮かんだ。
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