欠けていく世界で、きみの光を見つけた

第五話

冬服のブレザーが、ちょうどいい季節。

校門をくぐると、登校してくる生徒たちの声のあちこちに、文化祭の話題が混ざっていた。

私は視線を落としたまま、人の少ない端を選んで歩く。

どこか浮き足だった空気の中で、私だけが、取り残されているみたいだった。

「菜由、おはよー!」

昇降口に入ると、靴を履き替えていたひまりがこちらに気づいて大きく手を振る。

その明るい声に、張っていた気持ちが少しだけ緩んだ。

安心したように下駄箱へ向かおうとしたとき。

「ひまり、菜由ちゃん!おは〜!」

晴斗くんの明るい声が、男子たちの笑い声と一緒に近づいてきて、私は肩を揺らした。

「あ、晴斗たちじゃん」

振り返ったひまりにつられるように顔を上げた瞬間、心臓が大きく跳ねる。

「はよーっす」
「今日、文化祭のかかり決めだから、部活遅れそうだよな〜」

いつも通りの会話が始まり、晴斗くんと直哉くんの声が、後ろの下駄箱の前で止まった。

「……おはよ」

少し遅れて聞こえた低い声に、胸がぎゅっと縮こまる。

視線を向けると、背の高い泰ちゃんが、下駄箱に片手をついたままこちらを見ていた。

「……っ、お、おはよう……」

なんとかぎこちなく返したけれど、その不自然さは誤魔化せられない。

そのまま目を合わせることはできなくて、私は逃げるように視線を逸らした。

あの放課後から一週間が経ったけれど。
泰ちゃんとは、ずっと、ちゃんと話せていないままだった。

「菜由?」

ひまりの不思議そうな声に、私は慌てて顔を上げる。

「え? あ、ごめん」

誤魔化すように笑ったころには、もう泰ちゃんたちは階段を上がっていくところだった。

私は小さく息を吐いて、ひまりの隣に並んだ。

「なんか最近ぼーっとしてない?」
「そうかな」
「してるしてる。いつもに増して」

ひまりは、冗談っぽく笑いながら階段へ向かう。

私は曖昧に笑って、それ以上聞かれないように鞄の肩紐を握り直した。

階段横の掲示板の前で、ひまりが「あっ」と声を上げる。

「そうだ、今日までじゃん!」

急に立ち止まったひまりに、私はぱちりと瞬きをした。

ぺたぺたと色んな紙が貼られた掲示板。
その中の一枚を、ひまりは勢いよく指差した。

【文化祭 体育館展示スタッフ募集!】

大きな文字の周りには、去年の展示らしい写真が何枚か貼られている。

体育館の中で光る装飾や、カラフルな飾り付けは、たしかに楽しそうだった。

「去年、めっちゃ楽しそうだったから、今年はやりたいと思ってたんだ!」
「へえ」

ひまりがやるなら、当日は見に行こうかな。

そう思いながら、写真の中のきらきらした飾り付けを横目に、私はそのまま掲示板の前を通り過ぎようとする。

「菜由も一緒にやろ!」
「えっ」

けれど突然、ぐいっと腕を引かれて、私は掲示板の前まで引き戻された。

「ひまり、こういうの好きだもんね」

後ろから聞こえた穏やかな声に振り返ると、ちょうど登校してきたふうかがマイペースに笑っている。

「あ、ふうかもやるよね!体育館展示めっちゃ楽しそうじゃない?」
「たしかに。みんなでやったら楽しいかも」

ふうかは掲示板に少し顔を寄せながら、興味深そうに目を細めた。

本当は、あまり遅くまで残るようなことはしたくない。
文化祭の準備なんて、きっと大変だし。

だけど。
もしかしたら、何か、変われるきっかけになるかもしれない。

泰ちゃんを突き放したからこそ、もっと強い自分になりたいと、そんな考えが胸をよぎった。

「菜由、どう?」

こちらを覗き込むひまりに、私は慌てて顔を上げる。

「……う、うん。やってみようかな」

勢いでそう口にすると、ふたりはぱっと顔を輝かせた。
< 35 / 51 >

この作品をシェア

pagetop