欠けていく世界で、きみの光を見つけた
その日は、作業日程と簡単な説明だけで終わった。
「じゃあ今日は解散でーす!」
先輩の声と同時に、張っていた空気が一気に緩む。
椅子を引く音と一緒に、前の席のひまりが楽しそうに振り返った。
「垂れ幕!楽しみだね!」
体育館の装飾は、入り口のアーチや壁のイラスト、小さな飾りつけで担当が分かれている。
私たち二年生は、その中でも二階から下げる大きな垂れ幕を任されることになった。
「思ったより放課後作業多くねー?部活できねーじゃん」
晴斗くんが配られた資料をひらひら揺らしながら言う。
「仕方ないだろ。顧問からの派遣なんだから」
直哉くんが苦笑いしながら、晴斗くんの手元の資料を軽く指で叩いた。
サッカー部の顧問をしている先生は、生徒会文化課の担当もしているらしく、彼らは最初から半分強制参加みたいなものらしい。
「大会も終わったばっかだし。この際だから文化祭楽しもうじゃないの!」
打って変わって、完全な自主参加のひまりが立ち上がり元気な声を上げる。
「ひまり、気合い入ってるね」
ふうかが私に向けて、小さく言っていたずらっぽく笑った。
私はみんなの会話を聞きながら、手元の紙へもう一度目を落とす。
『放課後延長作業 19:00まで』
その文字を確認して、私はどうしようか考えていた。
幸い、遅くなる日は毎日じゃない。
今からお願いすれば、後半の作業日はお母さんもシフトを調整してくれるかもしれない。
部活に残れる日は少なくなるけど、クラリネットなら、家でも練習はできるから。
——だけど、文化祭直前の合奏練習には、ちゃんと出たい。
気づけば、みんなの会話が耳に入らなくなるくらい、私はじっとプリントと睨めっこしていた。
「菜由」
すぐ後ろから、低い声が落ちてくる。
完全に思考の中へ沈んでいた私は、その声に大袈裟なくらい肩を揺らした。
振り返ると、座ったままの泰ちゃんがこちらを見ている。
「帰り時間だったら俺が——」
そこまで言いかけて、泰ちゃんは不自然に言葉を切った。
気まずそうに肘をつき、言葉を探すように小さく視線を落とす。
あの日、言ってしまった言葉が後を引いて。
私たちの間には、誰にも見えない妙な距離ができてしまっていた。
私はぎこちなく口元を緩める。
「……大丈夫。ありがとう」
うまく目を合わせられないままそう返すと、後ろで小さく椅子が鳴った。
「……そ」
返ってきたのは、そんな短い返事だけで、泰ちゃんは何も言わず教室を出ていく。
席の周りでは、ひまりたちが様子を伺うようにこちらに視線を向けていた。
「じゃあ今日は解散でーす!」
先輩の声と同時に、張っていた空気が一気に緩む。
椅子を引く音と一緒に、前の席のひまりが楽しそうに振り返った。
「垂れ幕!楽しみだね!」
体育館の装飾は、入り口のアーチや壁のイラスト、小さな飾りつけで担当が分かれている。
私たち二年生は、その中でも二階から下げる大きな垂れ幕を任されることになった。
「思ったより放課後作業多くねー?部活できねーじゃん」
晴斗くんが配られた資料をひらひら揺らしながら言う。
「仕方ないだろ。顧問からの派遣なんだから」
直哉くんが苦笑いしながら、晴斗くんの手元の資料を軽く指で叩いた。
サッカー部の顧問をしている先生は、生徒会文化課の担当もしているらしく、彼らは最初から半分強制参加みたいなものらしい。
「大会も終わったばっかだし。この際だから文化祭楽しもうじゃないの!」
打って変わって、完全な自主参加のひまりが立ち上がり元気な声を上げる。
「ひまり、気合い入ってるね」
ふうかが私に向けて、小さく言っていたずらっぽく笑った。
私はみんなの会話を聞きながら、手元の紙へもう一度目を落とす。
『放課後延長作業 19:00まで』
その文字を確認して、私はどうしようか考えていた。
幸い、遅くなる日は毎日じゃない。
今からお願いすれば、後半の作業日はお母さんもシフトを調整してくれるかもしれない。
部活に残れる日は少なくなるけど、クラリネットなら、家でも練習はできるから。
——だけど、文化祭直前の合奏練習には、ちゃんと出たい。
気づけば、みんなの会話が耳に入らなくなるくらい、私はじっとプリントと睨めっこしていた。
「菜由」
すぐ後ろから、低い声が落ちてくる。
完全に思考の中へ沈んでいた私は、その声に大袈裟なくらい肩を揺らした。
振り返ると、座ったままの泰ちゃんがこちらを見ている。
「帰り時間だったら俺が——」
そこまで言いかけて、泰ちゃんは不自然に言葉を切った。
気まずそうに肘をつき、言葉を探すように小さく視線を落とす。
あの日、言ってしまった言葉が後を引いて。
私たちの間には、誰にも見えない妙な距離ができてしまっていた。
私はぎこちなく口元を緩める。
「……大丈夫。ありがとう」
うまく目を合わせられないままそう返すと、後ろで小さく椅子が鳴った。
「……そ」
返ってきたのは、そんな短い返事だけで、泰ちゃんは何も言わず教室を出ていく。
席の周りでは、ひまりたちが様子を伺うようにこちらに視線を向けていた。