欠けていく世界で、きみの光を見つけた
「もう壁の飾りはやっちゃってもいい?」
「授業に支障ない部分ならいいって言ってたよ!」

文化祭を前にした教室は、いつもの姿とはかなり雰囲気が違っていた。

窓際には、青や紫のカラーセロファンが並べられている。

カラフルなセロファンをガラスに貼っておくと、窓の光がきらきらと色を変えて床に落ちるのだ。

教室の後ろには、星型に切り抜かれた画用紙。
机の上に飾る用の、ライトや造花や、途中まで組み立てられたメニュー表。

今日までの間にこつこつと作られたあらゆるものが、所狭しと並んでいる。

私たちが、体育館展示の方へ行っている間にも着々と進むクラス展示のテーマは『星降る喫茶室』。

暗い教室の中で、星空みたいな光を楽しめるカフェにしたいと言ったひまりの案が選ばれていた。

「研修で見た星が忘れられないんだよね!」

決まった後、嬉しそうに笑っていたひまりを思い出す。

「菜由〜!ちょっとこっち手伝って〜」
「はーい」

ぴょんぴょんとはねて黒板の方から手招きするひまりに、私は笑顔を向けて近寄った。

ひまりとふうかと輪になって、机にかける布へ星型の飾りを貼りつけていたときだった。

ガラガラ、と教室の後ろ扉が開く。

「カーテン届いたー!」

大きな声に目を向けると、段ボールを抱えた男子たちが、わいわいと教室に入ってきた。

「お、やっと!」
「え!つけてみようよ〜〜!」

わぁっと集まっていくクラスメイトに驚きながら、私はその場からその輪を見つめる。

胸の奥が、ほんの少しだけざわついていた。

星空を作る展示なんだから、教室を暗くするのは当たり前。

それは分かっていたけれど。

段ボールの中から、重たそうな真っ黒のカーテンが取り出されるのを見て、私は視線を手元の星飾りへと落とした。

「よし、全部つけた!」
「廊下側もおっけー」

その間にも男子たちが脚立に登って、あっという間にカーテンは取り付けられていく。

黒い布が窓を覆うたび、夕方の光が少しずつ消えていった。

「じゃあ閉めるよー!せーの!」

誰かの声と一緒に、シャッ、と勢いよく全てのカーテンが閉められて、教室から光が消えた。

「わあっ……!」

一瞬遅れて、あちこちから歓声があがる。

真っ暗な教室の中。

カーテンのところどころに試し入れした切り込みの部分から、青や紫に色づいた光が差し込んでいた。

ステンドグラスみたいな光が、床や机にきらきらと落ちていく。

「すごーい!」
「え、めっちゃ綺麗!」

すぐ近くで、ひまりとふうかの弾んだ声が聞こえた。

だけど。
私は何も言えなかった。

さっきまで見えていたはずの手元も、星飾りも、全部が黒に飲み込まれている。

どこに何があるのか分からない。

私は、震える指先をぎゅっと握りしめて、ただカーテンが再び開かれるのを待っていた。

「ここ、もうちょっと星増やす?」
「そうだね、菜由のとこももうちょっと増やしてもいいかも」

ひまりとふうかが変わらない調子で作業を続けている。

二人の声はちゃんと聞こえているのに、私はそこへ入っていけなかった。

思ったよりも長く続く真っ暗闇に、息が浅くなる。

けれど、どうすることもできなくて、私は俯いたまま、必死に呼吸を整えようとした。

「……菜由?」

ふうかの声が、近くから落ちてくる。

「どうしたの?」

真っ白な頭でなんとか答えようと思ったのに、なかなか声は出てくれなかった。

「菜由、手震えてる……?」

ひまりの声もすぐ近くで聞こえて、気づけば、ぽたり、と膝の上に涙が落ちる。

その濡れた感触に気付いたときには、もう涙は止まらなくなっていた。

そのとき、突然ぎゅっと握られた手のひらに驚く。

「菜由、大丈夫だから」

ふうかの柔らかな声が落ちたと思ったら、ガラッと近くの扉が開いた。

廊下の光が、細く教室へ流れ込んでくる。

「手洗いに行こ!」

そこに立ったひまりの明るい声はいつも通りで、手を差し伸べるように、光の道が、私に向かって伸びていた。

ぐっと喉に何かが詰まる感覚を押し込めて、私は小さく頷く。

少しずつ戻ってきた視界を頼りに、ふうかの手を握ったまま、私はゆっくり教室を出た。
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