欠けていく世界で、きみの光を見つけた
廊下に出て、私は初めて、自分の手の震えを目にした。
ガタガタと、わざとらしいくらいに揺れる指先。

こんな姿を見たら、さすがにふたりも驚くだろう。

心配をかけてしまったことに申し訳なくなりながら、私は小さく涙を拭う。

廊下の隅にある階段までたどり着いたとき、私は立ち止まって、少し落ち着いてきた呼吸を整えた。

「ごめん。もう大丈夫」

鼻声のままそう伝えると、ふたりは足を止めて、じっと私を見つめる。

「……保健室、とかではない?」

ひまりが、落ち着いた声で呟いた。

「ならいいけど……」

小さく頷くと、ふたりはどこか迷うように私を見る。

きっと、不思議に思っている。
でも、踏み込んでいいのか分からない。

そんな私を気遣うふたりの優しさが、痛いくらい伝わってきて、私は俯いたまま、震える指先をそっと握り込んだ。

「んーーー、ごめん。やっぱりちょっと話そうよ!」

しばらくして、不器用そうに頭をかきながら、ひまりがそう言った。

その大きな声に、ふうかが驚いたように目を見開く。

だけどすぐに困ったように笑って「そうだね」と小さく頷きながら、階段へ腰を下ろした。

私は、促されても座ることができなくて、俯いたまま、ふたりの前に立ち尽くしていた。

「あのね、本当はずっと、おかしいって思ってたよ」

ひまりは、そんな私をまっすぐ見つめたまま、言葉を続ける。

「高学年くらいから急に元気なくなったことも、泰史とのことも。中学入ってから、頑なに私たち以外と仲良くしないのも」

怒ってるみたいな勢いの声に、胸の奥がぎゅっと苦しくなった。

「……気づくよ。ずっと一緒にいるんだよ、私たち」

そのあと落とされた声は、さっきよりずっと静かで、悲しそうだった。

「だけど、菜由が何も言わないから……」

声を小さく震わせて、ひまりは言葉を詰まらせる。
私は、ふたりから離れるように一歩後ろに下がった。

代わるように、ふうかがやわらかい声を落とす。

「菜由が言いたくないことは聞けないねって、話してたんだ」

ひまりとは対照的に、ふうかはいつもの穏やかな声で続けた。

「抱えてることがあるならね。それを聞くことで、私たちが力になれることがあるなら。いつでも言ってほしいって、ずっと思ってるから」

その優しすぎる言葉を聞いた瞬間、治まったはずだった涙が、またぽろぽろと零れ落ちた。

後退るみたいに一歩下がった足から力が抜けて、私はその場にしゃがみ込む。

「……っ、ご、ごめ……」

さっきひとりで堪えていたときよりもずっと、うまく息が吸えない。
滲んだ視界のせいで、ふたりの顔もぼやけていく。

「ごめん……っ、ふたりとも……ごめんなさい……っ」

気づけば私は、子どもみたいにしゃくり上げながら泣いていた。

そんな私を、ひまりとふうかが両側からそっと抱きしめる。

その温かさに触れた瞬間、ずっとひとりで抱え込んできた苦しさが、堰を切ったみたいに溢れ出して、もう止められなかった。
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