欠けていく世界で、きみの光を見つけた
通学路はさらに暗く、街灯の少ない道は、周りの景色がほとんど見えない。

私はいつも以上に歩幅を小さくして、足元を確かめながら慎重に歩くので精一杯だった。

真っ暗闇のお化け屋敷を歩くみたいに、どこに何があるのかがわからない。

かろうじて見えるのは、オレンジ色に滲む街灯の明かりと、スマホのライトに照らされた、数歩先を歩く泰史くんの運動靴だけ。

泰史くんは、ときどき歩幅を狭めたり、段差の前で立ち止まったりしながら進んでいる。

私に合わせて不規則に止まる運動靴に、私は唇をきゅっと噛んだ。

絶対、歩くの遅いって思ってるよね……。

そんな不安が頭によぎり、私はリュックの紐をぎゅっと握りしめて、泰史くんを追うように足を速めた。

隣に並ぼうと少し進路をずらした瞬間、腰のあたりに鈍い衝撃が走る。

「わ!」
「おい」

慌てたような声が聞こえる中、私はぶつかった場所に手を添えて立ち止まった。

どうやら、歩道の真ん中にあるポールにぶつかったらしい。

「あ、あはは、びっくりしたあ」

静まった泰史くんの表情が想像できて、私は笑って誤魔化した。

怖くて顔が見られない。
迷惑ばかりかけて、ごめんなさい。

そんな気持ちに押し潰されそうになる中、泰史くんはいつもよりずっと落ち着いた声で呟いた。

「ゆっくりでいいから」

責めてもいない優しい声に、胸の奥がぐしゃりと揺れる。
優しくされたことが嬉しくて、でも情けなくて、喉の奥がつんと熱くなった。

「……ありがとう」

静かにそう伝えて、再び歩き出そうとしたときだった。

不意に、泰史くんの手がそっと私の肩を引き寄せる。
突然近づいた温かさに、私はびくりと肩を揺らした。

「自転車」

その言葉にハッとして、私は視線を彷徨わせる。

そして、すぐ近くを通り過ぎていった自転車に遅れて気づき、目を瞬かせた。

教えてもらえなかったら、そのままぶつかっていたかもしれない。
想像しただけでヒヤリと嫌な汗が滲むのを感じて、私は小さく息を吐いた。

「ごめん、ありがとう」

恐怖で速くなる心臓の音がバレないように、私はすぐに離れて、無理やり笑ってみせた。

けれど、泰史くんは何も言わない。

その沈黙が少し怖くなって、私はおそるおそる顔を上げたけれど、暗さのせいで表情はよく分からなかった。

「泰史くん?行こう……?」

戸惑いながら声をかけると、彼は小さく息をつく。

「……手」

表情はやっぱり見えない。

でも、スマホのライトに照らされた場所へ、そっと差し出された手だけははっきり見えた。

「え……」
「いいから、手。怪我したら俺が母さんに怒られんだろ」

ぶっきらぼうに言いながら、泰史くんは待つことなく私の右手を掴んだ。

触れられた瞬間、胸が、どくんと大きく鳴る。
震えそうなくらい緊張した手のひらを、優しく彼の手が包み込んだ。

泰史くんから聞く、迷惑そうな声は、息が苦しくなるくらい私を傷つけるのに。

それと同時に、しっかり繋がれたその手にはどうしようもなく安心して、このままずっと離れなければいいのにと、願ってしまう。

「ごめんね、泰史くん」
「……なにが」

声は素っ気ないのに、泰史くんは変わらず私に歩幅を合わせてくれていた。

段差の前では自然に足を緩めて、狭い道では私をそっと内側へ導く。

言葉にはしない優しさが、家に着くまでずっと続いていた。

その間、私はうるさいくらい鳴り続ける心臓を誤魔化すので精一杯で。

真っ暗な世界は変わらないはずなのに、繋がれた手のひらが温かい光となって、私を安心させてくれていた。
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