The Melody of My Love for Youー君への恋の旋律
翌朝。

眠気を引きずりながらも、妃那の胸はどこか弾んでいた。

昨夜完成させて「華音」として投稿した旋律が、律の耳に届いている。

──そう思うだけで、通学路の空気がいつもより澄んで感じられる。

けれど、決して正体がばれてはいけない。

学校ではなるべく人目を避けて作曲アプリを開き、友達に「SNSつなごう」と言われたときには、必ずプライベート垢かどうかを確認して、華音のアカウントと間違えていないか三度もチェックする。

そうやって、ただの音楽好きとして日常を過ごしているのだ。

授業中。

午前の授業。

教室にはチョークの音と先生の声が響いていた。

妃那はノートを開いていたものの、視線は自然と斜め前の律へと吸い寄せられていた。

律は、いつも通り真面目に授業を受けているように見えた。

けれどよく見ると、耳に小さなワイヤレスイヤホンが光っている。

その姿に、妃那は思わず胸が高鳴った。

──授業中なのに、音楽を聴いてるんだ。

律はペンを握ったまま、うとうとと舟を漕ぎ、時折かくんと首を揺らす。

一瞬目を覚ましたかと思えば、次の瞬間には机に突っ伏して眠ってしまった。

その無防備な姿が、どうしようもなくかわいくて──

「きゃー、かわいい……」

と声に出しそうになり、慌てて唇を噛んで抑えた。

授業中だということを思い出し、必死に落ち着けようとする。

その時、ふと旋律が浮かんだ。

律の寝顔を見ているうちに、言葉が自然と心に湧き上がってくる。

妃那はノートの端に走り書きした。

授業の内容なんて、もう頭に入ってこない。

やがてチャイムが鳴り響き、教室に「起立!」の号令がかかった。

生徒たちが一斉に立ち上がる中、律だけは机に突っ伏したまま。

妃那は思わず小さな声で呼びかけた。

「……授業、終わったよ」

律ははっと目を覚まし、慌てて立ち上がった。

その拍子に、耳からワイヤレスイヤホンが外れ、妃那の足元へ転がってくる。

礼が終わった後、妃那はしゃがんで拾い上げた。

「これ、落としたよ」

「……あ、ごめん。ありがとう」

会話が終わりそうな空気に、妃那は勇気を振り絞って尋ねた。

「何、聴いてたの?」

律は少し照れたように笑いながら答える。

「最近、好きな曲があって。何個かあるんだけど……一つは○○で、もう一人が“華音”っていう人。
昨日も新曲出てて、めっちゃよかったよ。一回聴いてみて」

胸が大きく跳ねる。

──本人です、なんて言えるはずがない。

「……うん、聴いてみる」

そう返事をして、妃那は急いで移動教室へ向かった。
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