初恋の続きはトキメキとともに。

プロローグ

初恋は実らない。
そう耳にすることはよくある。

実際、ある企業の調査でも、8割の人が「初恋は成就しなかった」と答えたという。

それも納得だ。

なにしろ初恋は、恋愛経験ゼロの状態で始める、すべてが手探りの恋なのだから。

どう相手と距離を縮めればいいのかも分からない。

異性と会話するだけでも恥ずかしい。

好意を伝えるなんてもってのほか。

見つめているだけで胸が高鳴る。

アプローチする前に終わってしまい、でも密かに想いを抱え続ける――そんな状態も珍しくない。

それが初恋だ。


私の初恋もまさにそんな感じだった。

ただ私の場合は、アプローチ云々を考える段階にも至らず、恋に落ちると同時に失恋した。

だって、初恋の彼の隣にはすでに彼女がいたから。

2人は校内一の美男美女。
誰もが認めるお似合いカップルだった。

だから私の初恋はといえば、ただ遠くから一方的に見つめているだけ。

当然相手に認識されることもなく。
偶然校内で彼を見かけるたびに胸がときめき、好意というよりも憧れに近い感情に身を焦がしていた。

好きな人がいる――それだけで毎日がキラキラ輝き、周囲の景色が違って見えた。

もちろん、時には、どんなに想いを募らせても叶わぬ不毛さに、枕を濡らした夜もあった。

それでも、今振り返れば、あの頃の私はたとえ片想いでも十分幸せだったと思う。

結局、3年間思い続けた甘酸っぱい初恋が実ることはなく、私は高校を卒業した。

その後、彼を目にする機会は一度もなく、日々は過ぎ――気づけば私も27歳。

大学生になっても、社会人になっても、初恋の記憶は特別で大切な思い出として心の中でずっと色褪せないまま残っていたけれど、もはや過去のこと。

彼のことを思い出すこともほとんどなかった。


なのに、なぜ今――

私は初恋の彼に抱きしめられているのだろう。

いまだかつてこんなに至近距離で彼の端正な顔を見たことはない。

こうして間近で見ると、高校時代の面影を残しながらも、大人の魅力が増しているのがよく分かる。

三揃いのスーツを着こなした彼からは、ほのかにシトラス系の香気が漂い、いつもより鮮明に鼻先をかすめた。

つい先程まで飲み会の場にいたからか、彼の香りに混じって微かにアルコールの香りも溶け込み、余計に大人の色気を感じた。

肌のきめ細かさ、鼓動の音、纏う香り、そしてわずかな吐息まで――すべてが伝わる距離感に、思わずクラクラする。

腕の中で彼の温もりに包まれていると、混乱しつつも、胸の奥が甘く波打ち、心臓が早鐘のように響いた。

 ……本当になんで。なんで11年も経った今、彼とこんなことになってるの……?


彼に恋に落ちた高校1年の春から11年。

私の初恋は再び動き出そうとしていた――。
< 1 / 119 >

この作品をシェア

pagetop