初恋の続きはトキメキとともに。
思わず声が裏返った。

驚きから勢いよくバッと顔を上げると、私を見下ろしていた洸くんの目と視線が重なる。

冗談で言ったのかと思いきや、洸くんの瞳は予想外に真剣な色を帯びており私は固まった。

「……嫌?」

「い、嫌じゃないです、けど……こ、心の準備がまだというか、その……」

「うん、でもごめん。もう待てない」

そう言うやいなや、洸くんは口をもごもごさせる私の後頭部に手を添えると、顔を近づけてきた。

 ……う、うそでしょう!? あの広瀬先輩と私がキス!?

とんでもない展開に頭も心もついていけない。

脳内では非常事態を告げるアラームがけたたましく鳴り響く。

高校時代にずっと一方的に見続けてきた端正な顔はもうすぐ目の前だ。

吐息が聞こえるほどの距離まで近づいてきたところで私は反射的にギュッと目を瞑る。

そしてその直後……

ふわりと柔らかい感触がそっと唇に触れた。

私の心をほぐすかのようにとても優しいキスだった。

何度か角度を変えて口づけるも、そのすべてが壊れ物に触れるかのごとく丁寧で繊細だ。

ただし、唇同士は隙間なくぴったりと重なり、触れた部分からは熱が伝わってくる。

ドクドクドクと心臓が大きく脈打つと同時に、甘美なときめきが胸いっぱいに満ちていく。

 ……ああ、もうどうしよう。幸せすぎて怖い。

今が人生のピークではないだろうか。

あれほど恋焦がれた“広瀬先輩”と、そして今もなお惹かれてやまない“洸くん”と恋人としてキスをしている。

本当に夢のような瞬間だ。

マジックアワーが見せる魔法の時間なのではないかと思えてくる。

 ……そう、これは夢のような魔法の時間。やがて終わるもので、この幸せは有限なのを忘れちゃダメだ。

この交際はいずれ終わる。

きっと洸くんはいつか目を覚まして去って行く。

今はほんの気の迷い。

洸くんは、本来私なんかには手の届かない雲の上の存在の人なのだから。

だから、この幸せな時間が終わりを迎えても大丈夫なように、私は心の準備を怠ってはいけない。

深入りしすぎず、心にブレーキをかけて。


洸くんとの蕩けるような甘いキスにのめり込む一方で、思いがけず叶ってしまった初恋の先に待つ『終わり』に向けて私は冷静に備え始めたのだった。
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