初恋の続きはトキメキとともに。
「……仕事、行きたくないな。このまま1日中こうしてたい」

「ダメですよ。今日も“広瀬主任”には取引先とのアポや重要案件の会議が入ってますから」

「ははっ……彼女が担当アシスタントだと、スケジュールが全部バレてるからサボれないね」

「サボるつもりなんてないことも分かってます。広瀬主任はいつも仕事に一生懸命で……その、すごくカッコいいですから」

「……遥香、この状態でそんな台詞言う? 俺のこと煽ってるの?」

もう少しだけ布団の中にいたい欲求に駆られる朝の気怠さの中、何気ない会話を交わしていたところ、急に洸くんの瞳が妖しく光った。

このまま再び夜の続きが始まってしまいそうな空気に、私は冷や汗をかいて首を横に振る。

「そんな顔しなくても大丈夫。分かってるから。まだ週半ばだし、遥香の体に無理はさせたくないからね」

「そ、そうですか。良かったです」

「でも本当に、こんなふうにダラダラ1日中抱き合っていたいなって思うよ。……年明けからまたしばらく修羅場だけど、年度末が終わったらどこかに旅行でも行こうか?」

「旅行、ですか?」

「そう。2泊3日くらいで。1日くらいなら有休を同時に取っても支障ないだろうし」

「そうですね。……楽しみ、です」

洸くんからの旅行の提案に私はにこりと笑顔を返す。

でもその胸中は複雑に揺れていた。

 ……今から3ヶ月以上先の約束だけど、その頃私はまだ恋人なのかな? 洸くんは気の迷いから覚めずにいるのかな?

心の奥底に巣食う不安が、未来の約束に対して懐疑的な気持ちを生み出す。

洸くんは気づいているだろうか。

私が昨日渡したプレゼント。
あれも形に残らない物だったことを。

部屋に痕跡を残さないのと同様、洸くんの恋人ではなくなっている未来を考慮して、贈り物さえ私は消え物を選んだ。

 ……突き返す理由が思い付かなくて合鍵は受け取っちゃったけど……きっと一度も使用せずに返却することなるんだろうなぁ。

少なくとも私に使う意思はない。

いつか訪れる別れの日まで大事に保管しておくつもりだ。

私はふと視線を本棚へと向け、その中に格納されている高校の卒業アルバムへと意識を飛ばした。

あそこには私が憧れて一方的に恋焦がれていた頃の洸くんの姿が残されている。

その隣には洸くんと長年付き合っていたお似合いの彼女の姿もあるはずだ。

写真を見なくても、当時の2人の姿は私の脳裏にしっかりと焼き付いている。

 ……あんなに美人で素敵な彼女がいた洸くんが私なんかで満足するはずないもの。今はきっと物珍しさが勝ってるだけ。そのうち、絶対に終わりはくる……。

その時が少しでも遅ければいいな、と私は心の中でつぶやいた。
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