幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
プロローグ
多様な生き方が認められ、幸福の形は人それぞれだとようやく社会に浸透してきた現代。
結婚、という人生の一大イベントを必ずしも全員が経験するとは限らない。
『結婚しなくても幸せならそれでいいじゃん』と考える人も増えてきて、三十歳を過ぎてもなお独身実家暮らしの私、雪村美葉には大変生きやすい時代になったと言える。
「だったらどうして、こんなに寂しいのよぉ……」
頭上にぽっかりと浮かぶおぼろ月に向かって、満たされない気持ちを吐き出す。
友人の結婚式帰りなので、少々酔っていた。そうでなきゃ、帰り道の途中で公園に立ち寄り、ブランコに乗ってみようだなんて思わない。
もっとも、はしゃいだ気持ちになれたのは最初だけ。
ブランコを軽く漕いだだけで車酔いに似た感覚に襲われたので、今はただ椅子代わりにして座っている。
そばには一本桜の木が立っていて、ちょうどいくつかの花がほころび始めたところだった。
結婚式で思いがけない出会いがあるかも、と期待して、裾がタイトになった大人っぽいグレージュのドレスを新調したけれど、結局何事もなく、皺がついてしまっただけ。
美容室で綺麗にセットしてもらった編みおろしの髪は緩んで、お祝いの席に相応しい明るめのメイクも、今では中途半端に浮いているだろう。
……私の気合いは全部空回りだ。